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「ご機嫌はいかが? 隣さんの圭太さん。俺はとてもご機嫌ですよ。今日も晴天、好い天気ですね」

「あらやだ、お隣の庸一さん。こちらもすこぶるご機嫌ですよ。相変わらず体は痛い痛いなんですけれども。いやはや、もはや舎兄弟という名の運命を感じマスネ。お互いにお隣を陣取るなんて」


「まったくデスネ。おかげさまで退屈じゃありませんこと! ははっ、テメェの悪ノリが俺に感染っちまった。アリエネェんだけど、圭太さん」

「いやいや、庸一さん。俺のせいですか? それは責任転嫁っていうものですよ」


おほほっ、おほほっ、あははっ、あははっ、きゃはっ、きゃははっ、最後に揃って溜息。  


昼前から俺達はなあにお馬鹿なやり取りをしているんだろう。

今は落ち込むべき状況なのに。


こうやってお馬鹿やり取りを舎兄としている方が気分的に楽なんだけさ。


さてと悪ノリも此処までにして、真面目に近状を説明する。

土曜日の決戦で決着どころか第三者の乱入により、荒川チームと日賀野チームはほぼ全滅。壊滅。破滅(あ、最後はちげぇか)。


とにかく第三者の乱入により俺等は『大敗』というレッテルを貼られて、病院に搬送された。


搬送されている最中のことは覚えていないけれど(最後の記憶は五十嵐という男に首を締められたところまで。死にかけたって記憶はある)、目が覚めたら病室にいた。


随分こっ酷く、そして粘着質の高い虐げられ方をしたものだから、チームメートの半数は入院している。


入院しているのは俺、ヨウ、ワタルさん、キヨタ。

かろうじてタコ沢、シズ、モトは入院を回避したみたい。


通院は決定事項だったようだけれど。 


大半は一週間程度の入院。皆、目に見える重傷を負っている。


俺も例外じゃない。

頭に包帯を巻いて人生初の入院を経験している真っ最中だ。

首を動かしたり、寝返りを打つだけでも痛みが走る。


普通に“動く”という行為が苦しくて仕方がない。


酷い怪我を負っているのはワタルさんだ。肋骨に軽くヒビが入っているそうだ。

彼とは病室が違うけれど、お見舞いに来てくれる女子組が一番やばい怪我を負っていることを教えてくれた。


何かのご縁なのか、四人用大部屋で同室となった舎兄は俺の隣で体を労わっている(俺等以外、今のところ入院患者はいないから気兼ねなく話せる)。


同じように頭に包帯を巻き、顔にはベタベタとガーゼを貼っている舎兄は見事にイケメンが台無しだ。


傷だらけのイケメンと言ったら絵になるとは思うけれど、普段のイケた面子を知っている分、今の顔は見ていて痛々しい。


そんなイケメンのことヨウ曰く、俺と一緒で初入院だそうだ。


ここまで酷い怪我を負ったことも、喧嘩に負けたこともないのだと言う。


なにより今回の喧嘩は不意打ち過ぎた。

舎兄は奇襲でなければ、もう少し抵抗できただろうと判断しているようだ。

うん、俺自身もこんな理不尽な喧嘩を経験したのは初めてだよ。日賀野達の決着以前にワケも分からず第三者にヤラれて腹が立っている。


でも、それを表には出していない。

俺もヨウもあの日の土曜のことは、まだ思い出したくも、話したくもないから。


大敗はとてもショックだった。

覚悟を決めて全部を終わらせようと日賀野達とぶつかったのに、こんな形で決戦が終わるなんて。



そういえば、日賀野達もこの病院に入院していると女子組が言っていたな。



同じ病室にならなくて良かった。

健太だったらまだしも、日賀野とヨウが一緒にでもなったら、病室はまた戦場と化すに違いない! 大真面目な話、そんなことになったら入院が長引くって。