「あーあーあ、義兄さん。調子付いてきたなぁ。これだから不良って奴は」




塾から帰って来た須垣誠吾は廊下の壁に背を預けて彼等の会話を盗み聞きし、ヤレヤレと肩を竦める。


須垣誠吾と五十嵐竜也は二つ違いの異父兄弟だった。


家庭事情により別々の屋根の下で暮らしているが、ちょいちょいこうして義兄が我が家に押し開けて寛いでくる。



十中八九、自分に仕事を与えるためだろうけれど。



義兄がこんなジコチュー不良なため義弟の自分は何かと苦労している。

眼鏡のブリッジを押し、

「早く全部が終わらないかなぁ」

誠吾は小さく吐息をついた。


「僕はウンザリなんだよ。義兄さんの傍若無人っぷりには」


大体荒川と日賀野が仲間を率いて義兄に喧嘩を売らなければ、勝利しなければ、こんなメンドくさいことにはならなかったのだ。


とはいえ、義兄がこうも上手くいっていると腹立たしい。


少しはその鼻、へし折ってやりたい気分だ。


今は従順な好(よ)き義弟を演じてやっているが――。



「すこーし義兄さんに刺激を与えてあげてもいいかな」



黒く忍び笑いする誠吾は義兄に気付かれぬよう抜き足差し足忍び足でその場を立ち去る。



あくまで表向きでは演じてみせようじゃないか、義兄の成り下がり義弟を。水面下では、さあ、どう本性を秘めておこうか――?



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