「結局のところ何が言いたいかって言うと、俺は勝ち組だって自負していたし、今の今まで大敗したことがなかった。

奴等が『漁夫の利』作戦を決行しなければ、敗北の『は』も知らなかった。


けど俺は負けた。

向こうの見事な戦略で大敗も大敗。

狡かろうが何だろうが、中坊に負けたのは油断していた俺に敗因がある。


あの時の大敗は俺にとって人生最大の屈辱。レッテルを貼られた気分だった。
しかも仲間ごっこしている不良達に負けた。プライドがズタズタに引き裂かれたぜ」


伸ばしてくる疚しい手を叩く。

どさくさに紛れて、美味しい思いをしようとしてもそうは問屋が卸さない。


「奴等ほど仲間ごっこしてる奴等はいねぇ。
ある程度の仲間は、互いの利得のために必要不可欠だろうが『友情』なんて反吐の出る情をにおわせている奴等に負けたなんて、胃袋が捩れそうだった。

ああいう甘っちょろい奴等は嫌いなんだ、俺は。

仲間がヤラれたから、どんな手を使ってでも勝とうと仇討ちしてきたあの中坊達。

バッカみてぇなことしてくれた奴等に負けた俺。惨めなうなう。

あ、過去形か。作戦成功のおかげさまで幾分気分が晴れたしな」


しかし、それはあくまで“幾分”だと語り部は言い切る。

完全に気が晴れるまで、何度も甚振るつもりなのだろう。


何度だって絶望をあわせるつもりなのだろう。


恐ろしい男だと古渡は口角を持ち上げた。



「すべてが終わった時、俺はもういっちょ思い通りに地元の不良達を甚振ってやろうと思う。これでも俺、ヤラれる前まで地元の不良には恐れられてた存在なんだぜ? 地元は俺のもの……ってな」



「厨二病っていうより、ジャイアニズムよ。竜也のその発言。で、これからどーするの?」

「誰よりもあの二人を甚振ってやりてぇからな。奴等のいっちゃん精神的ダメージになりそうなことを起こす」



例えば、日賀野大和はセフレを随分大事にしているそうだ。

輩のセフレの名前は小柳帆奈美、荒川庸一の元セフレだった女。風の便りによると荒川庸一も、未だにその女に未練があるらしい。


それから荒川庸一自身は『漁夫の利』作戦で性格をよく理解した。


輩は舎弟を何よりも心の支えにしている。


目の前で随分と嬲ったが、あれほど取り乱すとは思わなかった。

予想外だった、仲間、特に舎弟を支えにしているのだと五十嵐にはすぐ分かったのだと言う。


「地味っこいあれが支え。ッハ、笑えるぜ。直海、小柳帆奈美と荒川の舎弟をマークしろ。ありゃ特に使える」

「リョーカイ。私もちょい興味あったんだよねぇ。荒川の舎弟……正確には荒川の舎弟と繋がっている彼女の方だけど」


古渡は嫌味ったらしく口角をつり上げ、形の良い上唇を赤い舌で舐めあげた。


根暗のココロのくせに彼氏、仲間、ずいぶんと楽しそうな玩具を持ったじゃないか。


また自分に苛めて欲しいみたいだ。


根暗のココロを一丁苛めてみようか。


クスリと笑声を漏らす古渡は、早速行動に移ると携帯を弄くり始める。ゲームは熱中している間に長くながく楽しみたいから。


「仕事熱心で助かる」


五十嵐はガムを噛みながら古渡に一笑。


「楽しいことは好きだからね」


ウィンクすると、ソファーで寛ぐ五十嵐が再び携帯を開き始めた。


ツイッターで心境でも呟くつもりなのだろう。古渡は肩を竦めて自分のすべきことを脳内で考える。すべては己の快楽のために。