利二が浅倉達と共に川岸の廃工場に来たのは、それから小一時間経った頃のこと。
 
響子達の携帯で応援要請に急いで駆けつけたのだ。

助けを求めに来た彼女達も途中で合流、共に廃工場に赴いた。


日賀野達の協定チームも一緒ではあったがお互いに争う気などなかった。


浅倉達がヨウ達に借りがあるように、日賀野達のために駆けつけた協定チームも借りがあるようで、ピンチという言葉に大層血相を変えていた。


廃工場に足を踏み入れ、利二は惨状に絶句するしかなかった。

一階では血を流している両チーム達。全員が気を失っているらしく、倒れたまま微動だにしない。


「こりゃあひでぇ。敵はトンズラしたようだが……とにかく手当てが先だ!」


浅倉は急いで荒川チームを運ぶと指示。

涼や舎弟の桔平、蓮が仲間達と共に荒川チームに駆け寄った。


利二は次々に運ばれる仲間を見やりながら(こっ酷くやられているのは一目瞭然)、地味友、そしてリーダーの姿を探す。


一階に倒れている仲間達は全員運ばれたようだ。


ということは二人は二階、もしくは三階にいるのだろうか。


「け、ケイさん」


ココロが何かに惹かれたのか血相を変えて階段を上り始めた。


慌てて利二、彼女の姉分も後を追い駆ける。


彼女は迷う事無く二階から三階に上り、そして立ち止まって顔面蒼白。


遅れて二人が上がると、そこには倒れている四人の面子。

順にヤマト、ヨウ、ケン、そしてケイが四肢を投げ出して倒れていた。


一階にいた仲間同様、こちらもこっ酷くやられ、気を失っている様子。


「ひ、酷過ぎる」


響子の隣で利二は絶句するしかない。


血の気を失ったココロがふらふらっと仲間に歩み寄る。

まず手前で倒れているヨウに声を掛け、軽く揺すって起きてくれるよう懇願。反応はない。



次いで最奥で倒れている彼氏に歩み寄り、両膝を折った。



ぐったりと手足を投げ出して倒れている恋人の頭を膝に乗せ、起きてくれるよう懇願。やはり反応はない。


下ろしている瞼、額、頬を撫で、投げ出している右の手を取り、優しく握り締めてクシャリと泣き笑いを零す。


「ケイさんのことだから、頑張ってできない喧嘩をしたんですよね。
分かっています。ケイさんは強い人ですから……強い人ですから。だから泣きませんよ、筋違いですもの」 


彼女は声音を震わせ、やられた仲間達の無念を噛み締め、敗北に辛酸を味わい、目を伏せる。



「ごめんなさい。私は弱い人みたいです。ケイさん……ヨウさん……これはショックです……ショック過ぎます」



ついにココロは背を丸め、膝に乗せている頭を強く抱き締めて小刻みに体を震わせる。


姉分の響子が彼女の肩を抱き締めるが、ココロはただ感情を抑えていた。

泣くなんて惨めな気持ちに、どうしても支配されたくなかったのだろう。



利二は田山に勿体ないほどの強い彼女じゃないかと気を失っている地味友に悪態をついた。



「田山……荒川さん……無事でいてくれと言ったのに。言ったのに」



喪心しているヨウの体を背負い、利二はやるせない気持ちに襲われる。


この行き場のない気持ち、何処にぶつければいいのだろう。

日賀野チームの協定が仲間を助けている最中、利二はヨウの体重の重みを背で感じながら項垂れた。ただただ項垂れていた。