同じ場所ににて。

モトはぶぅっと脹れているホシに一々青筋を立てていた。 


「喧嘩は好まないんだよね」


折角磨いた爪が傷付くし、なんて言ってくれるカマ猫にまた一つ青筋。

お前、決着の意味を分かっているのか。

こっちが殴ろうとすれば、顔はヤメテよねとか。痛いの嫌いだとか。暴力男だとか。取り敢えず、黙って喧嘩をしてくれないだろうか。


嗚呼、癪に障る男オンナだ! わっざわざ髪をピンクに染めやがって!


地団太を踏むモトの隙を見逃さなかったホシはニヤッと笑みを浮かべて、素早く地を蹴ると懐に入って鳩尾に痛恨の膝蹴り。


「ッ!」息を詰まらせるモトは後退、更に右の拳で面を殴り飛ばしてくるもんだから卑怯だ。


「いってぇ」


これこそ猫だまし、不意打ちは卑怯過ぎるだろと地面に寝転がるモトだったが、飛び掛ってくるホシに気付き、素早く勢いづいて寝返り。地に手をついて飛び起きた。


ちぇっと舌を鳴らすホシは残念だとばかりに、またぶりっ子脹れ面。


だ・か・ら!


男が男にそんな媚びたって靡くどころか、神経を逆立てるだけだと言っているのが分からないのかこいつ!


苛立ちを募らせるモトに、「お前さぁ」ヨウの舎弟になれなかったんだって? ホシが揺さぶり攻撃を仕掛けてくる。


些少動揺するモトだったが、それがどうしたと鼻を鳴らした。


舎弟になれなくても自分は兄分を尊敬している、心底尊敬しているのだ。


刹那単位で反論するものの、効果はいまひとつのようだ。


「バッカみたい」


尊敬して止まない男の舎弟にもなれず、自分に振り向いてもらえないと分かっていて、何故ヨウを尊敬しているのだとホシは指摘。


「モトって喧嘩がまあまあできるだけの男だしさ。
ヨウの舎弟みたいに、土地勘があるわけでも、チャリ捌きが上手いわけでもない。目を惹くような能力があるわけでもない。ただの凡人不良。だから選ばれなかったんでしょ? 舎弟にさ」


所詮その程度の男と、身の程を痛感したくせに。

シニカルに笑うホシの言葉に、クッとモトは顔を顰めた。

イッタイとこを突いてきやがってコイツ……そんなこと一番自分が分かっている。

自分はケイと違って心の器が小さい。


随分一方的な嫉妬心を抱いたし、力量も“それなりに”喧嘩できる程度。何もかもケイに負けている。


そんなこたぁ分かっているんだよ!

今も嫉妬したりしているんだよっ、畜生!



けど……。  



襲い掛かってくるホシの蹴りを紙一重に避け、受け流したまま回し蹴り。


これまた向こうに紙一重で避けられたが、諦めずその足で弁慶の泣き所を蹴り飛ばしてやる。



「アイッタァ! そこは卑怯じゃない?!」



ホシの文句に間違ったってお前にだけは言われたくないとモトは皮肉を返した。


「ホシ、揺さぶりなんて効かないからな。オレはケイを仲間だって認めているし、あいつはヨウさんにとって最高の舎弟だって認めている。ヨウさんの舎弟をするのはあいつしかいねぇ」
 

舎弟を自覚してないところも多々あって、ついつい見てらないところもある。


けれどケイは努力をしている。


並々ならぬ努力をしている。兄分はそんな仲間一人ひとりをちゃんと見極める男。


馬鹿にするな。


自分のことだってちゃんと見てくれている。


なにより兄分は別段取り得もない自分に言ってくれた。


馬鹿みたいに兄分の背を追うことしか出来なかった自分に兄分は言ってくれたのだ。これからも手を貸して欲しい、自分の力が必要だと。


だから、揺さぶりなんて効かないのだ。絶対に。


自分はもう兄分を疑わない。


ケイのことだってライバル視をすることはあるけど、敵視はもうしない。皆大事な仲間だから。


「ホシ! オレにもう猫だましは効かないからな! 覚悟しろ!」

「ちぇっ、単純犬っころのくせに!」