【廃工場一階・ドラム缶の山辺り】



そういえば、なんで自分達は大喧嘩したんだっけ。


いや理由は分かっているし、見えている。


どっち側に付くかで大喧嘩も大喧嘩をしたんだけれど、ここまで長続きする大喧嘩も大したものではないか?


自分達は中三の時にグループ分裂を起こしたのだから、大喧嘩も此処までいけば年期ものだろ。


ふうむ、なんで此処まで長続きしているんだろう。

思考を巡らせていると、自分のデコにゴッチーンと向こうのデコがぶつかってきた。


ぶつかるならば、まだ可愛い表現だが今のは故意的。


ゴンッと頭突きを食らったワタルは「アイタタ!」その場に蹲って、今のは効いたとデコを擦る。赤く腫れたデコを慰める間もなく、お次は右アッパー。


その場に倒れるワタルは、さっきから顔面バッカだと愚痴って口端を舐める。


うん、鉄の味……おっと能天気に仰向けになっている場合ではない。

急いで上体を起こし、ワタルは振り下ろされる拳を右の手で受け止めた。


「やーるぅ」


思わず惚れちゃいそう、ワタルの言葉に眉根を寄せたままの相手。


ドンッと腹部に片足を乗せて体重を掛けてくる。

アウチ、重いんですが……腹がぐぇっとなるんですが、へらへらっと笑うワタルに「おもろくないぞい」アキラはぶうたれた。


「ワタル。さっきから手加減ばっかしとるじゃろい。なーんの嫌味かえ?」


おや? さすがは親友、見透かしていたようだ。


「あっらぁん。わかっちった? だってアキラちゃーんさぁ。怪我してるっしょ? 腹部と左腕。これくらいハンデがないとねぇ? 僕ちゃんがねー。ツマンナイのー」

「よっけいなお節介じゃのう」


「いやん、僕ちゃーんは自分の好きなことをしてるだ・け・よんさま。で、もうハンデいらないみたいだから?」


ニヤリニヤリ、ワタルは笑みを浮かべたと同時に相手の足を長いコンパスで払う。


バランスを崩す相手にお返しの頭突きを食らわし、その場から逃げたが頭突きとは諸刃の剣である。


向こうにダメージを与える、しかし頭を使う自分にもダメージが降り掛かってくる。


目から星が飛び出そうなほど痛い。ああ痛い。頭が馬鹿になりそうだ! 成績的には既に馬鹿の類に入ってるだども!


ズッキズキする額を擦るワタル、一方でアキラも痛いと呻き声を上げて額を擦っていた。


「こんの石頭っ、こっちは繊細な頭だってゆーのに」

「嘘つきアキラたんめっ。繊細が先制頭突きするかっつーの。あ゛ー、俺サマの頭の細胞、何万個か死滅した」


いっそ全滅しろ、元親友の言葉にワタルは鼻を鳴らす。

その時はお前も道連れ、べっと舌を出して肩を竦めてみせた。


誰が道連れされるかと舌を出し返すアキラだったが、


「久々に二人じゃのう」


懐かしそうに首の関節を鳴らした。


そういえば、そうだ。

分裂以降、双方何かと仲間が傍にいたため二人で対峙するということがなかった。


昔は馬鹿みたいに二人でいる時間が長かったのに、分裂後初めて二人っきりで対峙したのではないだろうか。


親友だったからこそ、手前で決着を付けたい。その気持ちは両者同じだろう。

いつも一緒で、何をするにしても馬が合った自分達。

それがこの分裂で笑えるほど仲が決裂している。


互いに衝突した事がなかったからこそ、一番理解していた親友と張り合いたい。意地とプライドに懸けて。



「てかよぉ。なーんで俺サマ以外の奴にヤラれているわけ? お前。浮気は許さない派なんだけど?」

「浮気させるよう仕向けたのはそーっちじゃろうに」

「んー? 何の話だ?」


「おとぼけしてくれて結構。話すだけ無駄じゃい」


グループが分裂したから。

どっちが上か、どっちが下か。あの時の判断のどっちが正しかったか。


そんな問題ではないのだ。

潰したいものは潰したい。

お互い似たり寄ったりの性格だからこそ望むこの決着。


大喧嘩の際、互いに決めたのだ。手前で喧嘩の後始末をつけると。


いつかは来るであろう“決着”の日に、親友を潰すと。


それが喧嘩した自分達の後始末のやり方だ。


「俺サマが勝ったら下僕にしてやんよ。アキラ」


パキパキッ、ワタルは指の関節を鳴らして地を蹴った。


「ははっ、ほざけじゃ! わしが勝ったらパシリに任命してやるから覚悟せぇ!」


受け身の態勢を取るアキラは親友を迎え撃つ。


この決着でケジメを。


ケジメを付けた後は? そんなの終わってから考えればいい。


親友に戻るとか、戻らないとか、仲直りとか、やっぱり絶交とか。


そんな今はナシナシ。

今は真剣で楽しい喧嘩に、そいでもってケジメを付ける。



ただそれだけだ。