青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―





「微笑ましいぜ」



一部始終の光景に浅倉さん達が笑声を漏らしていたけど、俺は彼等の表情を見ることはなかった。


急いで倉庫裏に回り、利二に借りたチャリの鍵を解除しないといけなかったから。


やや汚れた銀のボディをしたチャリを見つめて、俺はうんっと自己完結する。


乗りなれていないチャリだけど大丈夫。


路上に放置されていたチャリも乗りこなした。きっと乗りこなせる……疵付けるかもしれないけど。

ごめん、利二。綺麗に返せる自信ないからな。


輪が連なっている頑丈なチェーンを外して鍵を解除している間にも、けたたましいエンジン音が消えていく。

バイク音が次から次に外へと出て行っているようだ。早く俺も行かないと。


チャリを押して倉庫前に戻る。

瞠目、そこには舎兄の姿。


あれ……なんでヨウがまだ此処にいるんだ。


お前、バイクには乗らなかったのか?

チャリだと皆よりも遅れて到着するかもしれないのに。


俺の心情を見透かしたようにヨウは一笑。歩んで俺の肩を叩く。


「頼んだぜ舎弟。俺にはバイクより、こっちの方がしっくりくる」


このキザ男め。

そうやって凡人舎弟を頼ってくれるところがキザなんだよ。

こんのイケメン不良。イケメンというところがまた癪だぞ。

俺はチャリに跨ってペダルに足を掛けた。

颯爽と後ろに乗ってくる舎兄を見やるとペダルを踏んでチャリを前進。


その際、ヨウに教えてやる。

めちゃくちゃ今更だけど、二人乗りは交通違反だってことを。


下手すりゃ罰金だってことを。


そしたらヨウは笑いながら「罰金の時は折半だな」なんて言ってくれた。


当たり前だろ。

二人で乗っているんだ。

罰金を科せられたら当然折半だ。なんでも半分だ。兄貴。





風を切ってチャリを漕ぐ俺は皆と別のルートで日賀野達のたむろ場に向かうことにした。


それに関しちゃヨウは何も言わない。

道は俺に任せてくれている。


信頼してくれる証拠だろう。


細い路地裏を通って、住宅街や団地を突っ切ってもヨウは何も言わない。


「こんな道があるなんてな」


感心してくれる始末。


と。


俺は周辺から聞こえてくるバイク音に眉根を寄せた。

騒音になりかねないバイクの音は団地街の静寂を平然と崩している。


ただの通りすがりのバイク音ならいいけど、音は複数。


道の入り組んだ団地街は細くて面倒な形になっているから、滅多なことじゃバイクなんて通らない。

複数のエンジン音が響き渡るなんておかしいんだ。

警戒心を募らせる俺は、


「見張られていたのかも」


ヨウに敵さんの臭いがすると意見を投げる。

周囲を見渡すヨウはビンゴとばかりに口笛を吹いてきた。

団地向こうの細い道に不良らしきライダーが見えると目を眇めていた。



マジかよ。


初っ端から妨害とかナシだぜ。ほんっと。




だがしかし、入り組んだ道はチャリの方が有利である!


「ヨウ、真面目にしっかり掴まっとけよ。今回は笑えない道を通るから!」

「笑え……は?」


どういう意味だって首を傾げるヨウに、


「俺も初めてだから怪我するかもしれない」


引き攣り笑い。

いやぁ、でも軽い怪我で済むなら……なあ?

奴等を振り切るには団地をただ通るだけじゃ無理だ。

平坦じゃない道を通っていかないと。


さあ気張れ、舎弟の俺!


まずは急ブレーキを掛ける。



「うわっつ?!」



前のりになるヨウの悲鳴を余所に、俺は急いでハンドルを切って方向転換。

チャリは機転が利きやすいところが利点だと思う。

バイクみたいに猛スピードが出るわけじゃない。

反面、チャリの不利な点はバイクに比べてスピードが無い。このままじゃすぐに追いつかれる。

停まることで向こうに見えていたバイクの姿が前へ前へと消えて行く。


尻目に右にハンドルを切って、俺は団地内の駐車場を突っ切った。

団地の敷地に設置されている公園を通り抜け(ちびっ子の諸君、驚かせてごめん!)、段を無視して脇道に出る。


ガクンと上下に揺れるチャリの揺れと激しさに、


「マジで……笑えねぇ」


ヨウが俺の肩を掴みなおしてきた。バッカ、笑えないのはこれからだぜ!


紆余曲折している俺達の姿を見つけたバイクが追って来た。

チッ、団地は見通しがいいからな。

どんなに振り切ろうとしても簡単に見つかっちまうんだろうな。


一旦急ブレーキ。


後ろを走っていたバイクを前に見送って、俺は左にハンドルを切った。


……ゲッ! なんか徒歩組の不良もいるんだけど! しかも集団?!