青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




「おりゃあ、おめぇ等に是非とも一旗挙げて欲しい。勝って来いよ」


浅倉さん。頼もしい一言だ。


「全力でフォローせんとねら、こっちんこつは気にせんでちゃくれんね(全力でフォローしますから、こっちのことは気にしないで下さい)」


あー……副頭の涼さん。

多分頼もしい一言を投げてくれたんだろうけどチンプンカンプン。


取り敢えず誤魔化し笑いで声援を受け止めているけどちっとも分からん。

同じジャパニーズなのに異文化を感じてしまう方言、恐るべし。


浅倉さん達との挨拶もほどほどに、利二は向こうの仲間と一足先に浅倉さん達のたむろ場へ。


浅倉さん達は俺等をバイクでたむろ場に運んでくれるために残ってくれている。


利二を乗せたバイクの音たちが聞こえなくなると、ヨウはふーっと息をついて浅倉さん達を背に仲間達を集合させる。


俺達も行動開始だ。

各々乗り物に乗って日賀野達のたむろ場に乗り込む。

俺達のたむろ場から日賀野達のたむろ場までチャリで約15分ってところか。


近道すればもうちょい時間を削減できる筈。

皆はバイクだしな。なるべく時間削減を心得とこう。


「誰一人欠けたくねぇ」


だから無茶だけはするな、ヨウは真剣な眼差しで仲間達に言う。


「いいか。目的は日賀野チームを潰すこと。けど、やべぇっと思ったら自分を優先しろ」


うーん、そらお前が一番当て嵌まるぞ。ヨウ。


俺が思っていたことをワタルさんが口にしてくれたおかげで(「ヨウちゃんにだけは言われたくナーイ」)、場の空気が少し和んだ。


んでもって和んだついでに、


「はいっス!」


キヨタが元気よく挙手。

今の心境ちょっとだけ語りますとかKYなこと言ってきた。


おいおいキヨタ、空気を読みなさい。

心中で呆れる俺を余所にキヨタは自分の右手を円陣中心部に差し出して口を開く。


「俺っち、途中からチームに入れてもらいましたけど、すっげぇこのチーム好きっス! だから今回のこと終わらせて皆でまたカラオケに行きましょう!」


満面の笑顔のキヨタ。

突然のことに皆はキョトン顔。俺はこいつのしたいことが分かっちゃったぞ。


あーあー愉しいことしやがってからにもう!


へい、調子乗りでノリの良い田山圭太。二番いっきまーす。


「暴露します。ヨウから舎弟に指名された時心の中ですげぇ泣いていました。
だって俺、不良じゃなかったし……地味だし……何度白紙にしたかったか。でも今は舎弟になったことで皆と会えたから良かったと思う。最後まで頑張ろう」


俺はキヨタの手の甲に自分の手を重ねた。

自分の意図を分かって嬉しいとばかりに、ニッと笑ってくるキヨタ。俺も一笑する。


チームだからこそ、こういうことをしたいんだろ?

不良の群がこれをするってのも不似合いだけどな。


「んっもぉ。体育祭じゃないんだからぁ。青春してどーすんのよぉ? ま、しょーがないなぁ。三番ワタルちゃーんの一言。ファイト一発!」


けらけらと笑うワタルさんが俺の手の甲の上に自分の手を重ねた。


俺等のやり取りで、もうチームにも意図が伝わっている。


「オモシレェじゃんか」


響子さんはこういうのは嫌いじゃないとワタルさんの手の甲に手を重ねた。


「うちもこのチーム、気の置けない奴等バッカで好きだよ。喧嘩じゃなくて、カラオケとかでドンチャン騒ぎてぇな」


響子さんの手の甲にモト。


「オレ、来年も再来年もこの面子と一緒にいたい! 勝とう! あ、これが終わったら受験勉強……ボチボチしないといけないんで皆さん、勉強の面倒宜しく」


モトの手の甲にココロ。


「わ、私……こんなにもオドオドオロオロな性格ですけど……みなさん、優しくしてくれました。で、出逢えて良かったと思います。こ、こ、このチームにいたおかげで……自分がちょっと好きになれました」


ココロから弥生、彼女の場合は両手を重ねてきた。


「右手は私、このチーム大好き! 左手はハジメ、絶対チームに戻って来るから待ってて! 以上! 次、タコ沢!」

「俺は谷沢だ!」


吠えるタコ沢は嫌々手を重ねてきた。

ほんとうに嫌々。俺はチームに入ったは覚えねぇ、とかブツブツ。


「チッ、今は臨時で入ってやっている。けど、これが終わったらヨウ、ケイ。テメェ等への雪辱を晴らす!」


まーだそんなこと言っているのか? もう仲間じゃんかよぉ。忘れようぜ、そんなこと!
タコ沢の大きな手の甲にシズ。


「……ねむい……終わり次第、ラーメン……全員でラーメン……」


なに、その仕事終わりのリーマンがかますノリは。副なのに全然緊張感ねぇ!


最後は我等がリーダーのヨウ。

一呼吸置いて副頭の手の甲の上に自分の手を重ねるとメンバーの顔を見渡す。


強張った表情から一変、


「大事な仲間だ」


自分にとって失いたくない面子だと目尻を下げるイケメン不良は重ねられた手に視線を落として、また一呼吸。




「終わらせるぞ。これを終わらせて……ハジメが戻って来たら全員で飲み会だ。ドンパチすっからな。うっし、行くぞっ!」  




掛け声に俺達は天高く一声。 

重ねた手を温もり達を自分の手の甲に染み込ませ、全員の気持ちを一つにして円陣を崩すと各々行動開始。