そんな時、帆奈美に声を掛けたのはヤマトだった。
前々から自分に優しくしてくれた彼は、不安を噛み締めている自分にこう告げた。
「おい帆奈美、どっちに付いてもお前の居場所は無くなんねぇ。大体お前、そんなちっぽけな価値の女か? 荒川と一丁前な性交はしておいてよ。つくづくくそメンドクセェ女だな」
「ヤマト……でも」
「価値がねぇなら、俺は今までテメェの存在を無視している。被害妄想も大概に……おい、頼むからその目はやめろ」
ぶわっと涙目になる帆奈美に、
「あ゛ー」
なんで泣くんだよとヤマトは頭部を掻き、舌を鳴らし、やきもきし、ついにはぽんぽんっとぎこちない手付きで頭を撫でた。
「柄じゃねえんだよ」
誰かに優しくするなんて俺の性分じゃねえ、皮肉るのが本業だ。
ヤマトは頼むから泣き止んでくれと懇願。どうすりゃいいか分からない、らしくない困惑の含まれた声に帆奈美は泣き笑いした。
「ヤマト……いつも優しい。貴方、私の気持ち……いつも分かってくれる。気付いてくれる。言葉にしてくれる」
「あんだけ気付いて下さいオーラを出されて、気付かない方が無理だっつーの。
荒川は鈍いみてぇだがな。テメェの構ってくれオーラは見え見えだ。少しは自重しろって思うく……マジかよ帆奈美。なんでそこで嗚咽、号泣、勘弁しろって。俺が泣かせたみたいだろうが」
「ったく、メンドクセェ!」荒々しく涙を流している帆奈美を抱きすくめ、背中を叩きながら泣き止めと吐き捨てた。
まったくもってらしくない。ああ、らしくない。
ヤマトの不機嫌声に、帆奈美は涙の量を多くした。
不機嫌に怖じて涙しているのではなく、彼の優しさに涙が出るのだ。
どうしても涙が出るのだ。
優しくされればされるほどしゃくりあげる帆奈美の髪を梳いて、ヤマトは彼女の両眼を見据えた。
「テメェはどうしたい? 言ってみろ。その口で望みを言ってみろ。叶えてやれるかもしんねぇぞ。あくまで“かも”だがな。絶対ってのは無理だ。不可能だと思っとけ」
ぶっきら棒な物の言い草に帆奈美は涙を流しつつ、
「不安嫌い」
不安なんて感じたくないと真情を吐露。
ヨウとセフレになってから、不安が募るばかり。
彼は望む言葉を掛けてくれないし、どう思っているのかも分からない。
こっちから歩んでばかりだし、求められることなんて少ない。
気持ちを聞いてもはぐらかされるし、いつ捨てられるかと思うと、怖くて仕方が無い。捨てられたら、自分は仮にヨウを選んでも居場所などなくなってしまう。
赤裸々に白状すると、彼は呆れもせず、なるほどと頷いて言葉を返す。
「荒川に恨まれる覚悟と後悔する覚悟ができるなら、俺がメンドクセェ女を貰ってやるよ」
「ヤマト……だけど同情いらない。邪魔……思うならべつに」
「お前って一々面倒な女だな。だったら最初からこの案を持ち出さねぇよ。くそっ、わーったよ。言ってやる、必要だってな。
それがテメェの欲しかった言葉だろ? べつに俺、テメェみたいなメンドクセェ女、嫌いじゃねえしな……っまた泣く。どーすりゃ泣き止むんだ。お前は」
大概で勘弁しろ、ヤマトの嘆きに泣き泣き泣き笑い。
「いつだって気持ち……分かってくれる。見てくれている」
帆奈美はヤマトの背に腕を回し、彼の胸に顔を埋めて温もりを感じた。
「分かりたくて分かっているんじゃねえよ」
言葉を返すヤマトは、残念ながら女の気持ちが分かってしまう性格なのだと自嘲。
損な性格だとぶうたれている。
それはヤマトの言い訳であり、照れ隠しなのだと分かっていた帆奈美は今度こそ笑って見せた。帆奈美がヤマト側に付く瞬間だった。
後日、帆奈美はヨウにすっぱりとセフレを切ると言い放つ。
何故ならば自分はヤマトに付くからだと、帆奈美は力強くヨウに告げ、
「貴方はプライドを取った」
仲間を見ていないと発言。