空き教室を出たヨウは、人気の無い廊下を通り、屋上に通じる階段を上る。

屋上は普段閉鎖されているため、途中までしかいけない。

階段を上る途中で、段に腰掛けている女を見つけ、ヨウは軽く吐息をつく。


「こんなところまで呼び出さなくてもいいだろ」


もうちっといい場所あるだろうに、ヨウの意見に帆奈美は脹れ面を作る。


「誰もいない場所。好き」


ぶっきら棒な返答に、へいへいとヨウは彼女の隣に腰掛ける。


まったく、別に教室でもいいだろうに、どうしてこんなところで二人きり。

女って分からん。
まったくもって分からん。


一抹も分からん。此処でどーしたいのだ、この女は。



「ヨウ……」


不貞腐れ面のまま、学ランを引っ張ってくる帆奈美を流し目。


間を置いて、軽く彼女の細い腕を引くと唇を重ねた。

最初は子供のような啄ばむバードキス、そして覚えたてのディープキス。


次第に深くなる口付けを堪能しながら、合間に息継ぎ。

音が更に興奮させるが、学校でそれ以上の行為は無理だと踏んでいる。


「続きは帰りな」


軽く口端を舐めて、帆奈美の頭に手を置く。

頷く帆奈美に、んっとヨウも頷き、さっさと立ち上がって教室に戻ろうと彼女を誘う。


すると帆奈美はやや哀しげに微笑を浮かべ、たっぷり間を置いて頷いた。


その意味、当時のヨウには分からず仕舞いだった。

早く皆の下に戻りたいヨウが、もっと二人の時間を堪能したいなど……帆奈美の心情に気付く筈もなかったのだ。

従順に従う帆奈美の表情に首を傾げつつ、ヨウは彼女と皆の待つ教室に向かった。


さっさと戻って来たヨウと帆奈美の姿に、


「あいつ、女って生き物を全然分かってねぇな」


ヤマトが独り言のように皮肉っていた。

それでもグループの中で些少の溝やすれ違いはあったものの、どうにか纏まりは見せていたのだ。分裂事件までは、確かに纏まりを見せていた。





分裂事件が起こる契機は、とある高校生不良グループを伸したことから。

やり方・考え方の違いからヨウとヤマトが本格的に対立、仲が良かった者達も各々亀裂や対立を見せ始める。


「やっぱヤマトの方が正しいと思うんじゃい。ワタルもそう思うじゃろ?」

「あ、んー、分からないぴょん吉……」


どうして迷う必要があるのだと首を傾げる大親友に、ワタルは曖昧に笑い、ヨウに付くか、ワタルに付くか迷い始め。


ハジメは迷うことなくヨウを選び、ヤマトと対立。

シズもヨウを選び、ヤマトを切り捨てた。


しかしアキラはヤマト側に付き、ヨウと決別。


ホシも「ヤマトがいい」でヤマト側へ。


そうして仲間達が分裂を始める間、帆奈美は全員と一緒にいたいを切望していた。


またやり直せるじゃないか、そう思っていたのだが……いやグループが分裂することで自分の居場所がなくなってしまうことを恐れていたのだが、セフレのヨウには気付いてもらえず。


彼自身に不安だと言っても、「しゃーないだろ」と一蹴されてしまい、帆奈美はどうすればいいか分からず。


不安ばかりを募らせる帆奈美は、分裂を契機に自分の居場所と存在価値を失うかもしれないと恐怖を噛み締めていた。