――各々過ごしていた中学時代の思い出。



最初の頃は各々上手くいっていた筈だった。

そりゃ仲が悪かったところもあるけれど、最初は纏まりのあるグループだったのだ自分達は。


「だっから! ヤマト、テメェはどーしていっつも曲がったことしか考えられねぇんだよ! アリエネェだろこれ!」

「はあ? 荒川、だから貴様は単細胞だって言ってるんだ。もっと脳みそを使え。勝てばいいんだよ、勝てば」


ニヤッと笑うヤマトに対し、


「最悪だテメェ」


不機嫌且つ文句タラタラにヨウはトランプを投げて腕を組んだ。 


昼休み。
空き教室の一室を拝借して仲間とたむろっていたヨウは、ヤマトとポーカーをして勝負をしていたのだが先程から連敗。


おかしいと思いつつ、勝負を挑んでいた矢先、ヤマトがイカサマをしていることに気付き、現状に至る。


あれほど念を押してイカサマだけはナシだと言い聞かせたのに、向こうも快諾していたくせにこの始末。どうしてくれようか。


唸るヨウに、「単純」ヤマトが皮肉る。

カッチーンときたヨウがこめかみに青筋を立て、「このペテン師」反論。

更に反論として、ヤマトの禁句の一つを口ずさむ。


「犬嫌い。犬に怯えて触れもしねぇくせに」


ある程度の付き合いで知ってしまったヤマトの弱点(彼は必死に隠しているらしいがヨウは偶然知ってしまった)。お返しネタとして、ヨウはここぞとばかりに弱点を弄くる。

そのため、余裕綽々のヤマトも軽く青筋を立て、口端を痙攣させる。


「俺は動物アレルギーなんだよっ。特に犬はアウトなんだっ。怯える? ッハ、ほざけ」

「それにしちゃ犬にだけ、すっげぇ距離を置くよな? 昨日の喧嘩帰りも、犬に吠えられてちょいビビッてたくせに。あーあ、ヤマトさんともあろうお方がお犬嫌いなんて、カッコわるぅございますね」


「……表に出ろ、荒川。どーやら調教を望んでいるらしいからな。たっぷり甚振ってやる」

「はあ? だぁあれがテメェなんぞに躾けられるってぇ?」


視線をかち合わせて青い火花を散らし、互いに表に出ろと椅子を押し倒す両者。

そんな二人を宥めるのはハジメだった。


「喧嘩しない」


毎度ながら仲裁に入るハジメは、助っ人を呼ぶために机に腰掛けて漫画を読んでいる二人の不良に声をかける。


アキラとワタルだった。

ヒィヒィ笑声を上げていた二人は、ハジメのヘルプに放っとけと一蹴。


「二人の喧嘩なんていつものことヨンサマ。仲裁に入るだけ無駄っぴぃ」

「どーかんどっかーんじゃい。ぶっ、あひゃひゃひゃひゃ! ここのシーン最高じゃい!」


まったくもって相手にしてくれない二人にハジメは溜息をつき、取り敢えず他に助っ人はいないかと目を配った。


ホシが爪を研いでいたため、「ホーシ」ハジメが助っ人にきてくれと頼む。


するとホシ、


「にゃあ」


可愛らしく鳴いて嫌だと笑顔を見せてきた。

ちっとも可愛くない鳴き声に「キモォ」モトが顔を顰めている。


「カマ猫、勘弁しろって。そのぶりっ子」

「ひどーい。可愛いって言ってくれる?」


ぶぅっと脹れるホシにキモイを連呼するモト。

両者、助太刀はなさそうだ。


ということは……嗚呼、駄目だ。


机に伏して寝ているシズはおやすみモードだし、その横ではサブがギャンギャン吠えて、


「相手しろ!」


向こうは向こうで闘争心を剥き出し。助っ人になってくれるどころじゃない。


自力で打破するしかないか。

ハジメは青い火花を散らしている二人に話題を振る。


「ねえ、響子や帆奈美は?」

「あ゛ー? 知るかよ。どっちもオサカリなんじゃねえの?」


「ヨウ……あのねぇ。帆奈美は君の女でしょ。今の発言、無責任だって。セフレでも君の女には違いないんだから。ヤマト、知らない?」

「さあな。ま、響子はおっさんとエンコー中らしいからな。外に出ていると思うが……帆奈美はあれじゃね? 待っているんじゃね。どっかで誰かさんの連絡を」


意味深に言うヤマトは、流し目でヨウに視線を送る。

連絡を待っている。

ヨウは思わず自分の携帯を取り出してメールを確認。


おや、新着メールが一件。

中身を開いてみれば、噂をすればなんとやらである。


「イチ抜け」


ヨウはヒラヒラと手を振って教室を出た。



その際、ヤマトとハジメの会話を耳にすることに失敗する。



「ヤマトって女心がよく分かってるよなぁ。ソンケーしたいよ」


「てか、あの馬鹿がなあんも見てねぇだけだろ。
帆奈美って女は常に構ってオーラを出して、相手に気付かれようとアピッているんだよ。

口に出すのが恥ずかしい分、態度で示してくる。あいつはちっとも分かってねぇ。チョー馬鹿だから」