肩を負傷してもなんのその。


容赦なくブンッと拳を振ってくる合気道経験者から逃げるため、モトはビリヤード台の方へと逃げた。


「モトォオオ!」


ひでぇひでぇと嘆くキヨタに、


「なんでそーなるし!」


誤解も誤解だとモトは喚き騒いで逃げ惑っている。


ついには舎兄から逃げ惑っているケイに、


「ケイィイイイっ! お前のせいだからな!」


なんて飛び火させる始末。


勿論向こうにとってはなんのこっちゃな話。


「はいぃ?」


舎兄から逃げながら、一体全体何の話だとケイは素っ頓狂な声音を上げていた。


「突拍子もなく俺に罪を被せられても困るんですが、モトさんよ!」

「うっさい! アンタが舎弟としてしっかりしてないから、オレがこんな目にっ、だぁあ! アッブネ! キヨタ、アッブネ! ほらぁああっ、アンタのせいだぁあ!」


「ええぇえ?! 身に覚えのない罪を被るほど、俺もお人好し人間ではないのですがッ! とっ、兄貴っ、そろそろ許してくんねぇ?!」

「ケイ! とにかくオレに謝れ今すぐ謝れ土下座して詫びろォオオ!」


「だから俺になんの罪があるんだよぉおモト?!」


騒がしい奴等だ。


利二は可笑しいとばかりに笑いを噛み締め、軽く腕を組み、光景を見つめる。


分かっている。


これは自分自身の気持ちの問題、誰が悪いわけでもない。

地味友が悪いわけでも、荒川が悪いわけでも、自分自身が悪いわけでもない。


ただこの状況を受け入れられない自分がいるだけ。

嫉妬に駆られている情けない自分がいるだけなのだ。


チームに誘われて嬉しくないわけではないけれど、今の自分では入れないだろうし、これから先も入れない。


嫉妬してしまう自分がいるから。

仕方が無いじゃないか、抱いてしまうものは。


それでも、必要としてくれている。友達が自分を必要としてくれている。


だから傍にいるし、関わろうとする。


一時的だがチームに身を置いとけと言われて、スンナリと従う自分がいる。


結局のところ、嫉妬なんてなんのそのなのだ。

友達に必要とされていると分かっているから。モトも同じ気持ちに違いない。


「いっそのこと嘉藤と舎兄弟になってみるか。そしたら、また視界が切り開ける気がする」


当然、これは嘘だけど。


微笑ましい光景を見つめる一方、利二はふっと顔を顰め別のことで懸念する。


今更だが何故、日賀野達の唐突過ぎる過激な行動に出たのだろう。


まだまだ余裕はあっただろうに、まるで腹を立てたかのように起こった一連の事件。


そしてハジメと呼ばれている不良のフルボッコ事件に、自分が耳にした魚住の負傷事件。


踊らされている気がするのは……気のせいか?


「気のせいであればいいのだが、胸騒ぎがする」


とてもとても嫌な予感がしてならない。

利二は不良達の騒がしい追いかけっこを眺めながら、自分の未来予知に悪寒を感じていた。



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