俺達が倉庫に戻ると、何やら淀んだ重々しい空気がお出迎えしてくれた。

どうやら俺達が抜けている間に良からぬ出来事があったらしく、我等がリーダーもチームメートも顔を顰めている。


「どうしたんだ?」


声を掛ければ、弾かれたようにヨウが俺達を見て「戻ってきたか」もう大丈夫か、ココロに笑みを向けてきた。


小さく頷く彼女は気恥ずかしいのか、それとも迷惑を掛けた後ろめたさがあるのか、そろそろーっと俺の後ろに隠れた。


おいおいココロさん、俺の後ろに隠れられても……田山ガードはさほど効力を持たないぞ。

少なくともチームメートの前じゃ。


寧ろからかわれるネタ作りにしかならないぞ!


ほら見ろよ、ワタルさんのあの悪意ある微笑み!


間違ったって「あら微笑ましい光景ね」じゃなくて、「おやん? これは美味しいネタゲットの予感」という面をしているから!


うっわぁ、あの目、あの笑み、あの雰囲気、まさしく俺等(というか俺!)を美味しい餌食にしようとしちゃって。


これは話題を切り替えなければ!


後ろに隠れるココロを余所に、ついでにワタルさんの悪意面をスルーし、俺はヨウ達に何かあったのかと再度質問を投げる。


ただならぬ雰囲気だけど……そう聞くとヨウは浅倉さん達から連絡があったことを苦々しく説明。


曰く、日賀野達が自分達と協定を結んでいる不良達チームに、俺達と協定を結んでいる浅倉さんチームを襲わせたんだと。


幸いな事に向こうが勝利したらしいんだけど、日賀野達は俺達と繋がりを持っている不良達をターゲットにしたらしい。

荒川チームじゃなく、まずは周囲潰しに専念し始めたようだ。ヨウは荒々しく頭部を掻いた。


ということは俺達に手を貸している奴等、繋がりを持っている奴等にも被害が及ぶというわけで……まさか間接的情報役を買って出ている利二にも。


可能性がないとは言い切れない。



あいつはチームメートでなくとも、俺と繋がりを持っている上にチームに手を貸している。利二の身の上が危ないんじゃ。


俺の懸念を読んだのか、


「さっき五木に連絡をしてみた」


ヨウは電話したことを告げて来る。

だけどバイト中だったのか、電話に出なかったと不安の色を隠さぬまま俺に報告。


そういえば今日はバイトがあると言っていたっけ。


多分、大丈夫だとは思うけど……後で俺からも連絡してみよう。何だか日賀野達の動きが過激化しているような気がするな。


「……向こうも本腰を入れ始めたのかな。ヨウ」


俺の意見にヨウは相槌を打つ。


「ああ。そのことについて、今話し合っていたところだ。ヤマトの得意戦法は相手を徐々に追い詰めて、弱ったところを一気に叩き潰す。
まさしくその段階に入っていると読んでいいだろう。あいつ等もガチになりやがったな。そろそろゲームに飽きてきたのか、それとも何か目論見があるのかは分からねぇが」


「ふ……古渡さん……関係しているかもしれません」


ここで俺の後ろに隠れていたココロがひょっこりと顔を出す。


古渡という女はココロにとってトラウマそのものなんだろうけど(俺で言う日賀野に当たる人物だろう)、チームのためを思ってなのか、古渡が関与しているじゃないかと意見。


ヨウは間を置いて、良ければそいつのことについて教えてくれないかと頼む。


俺的にはあんまりココロに辛い思いをさせたくないけど(べつに後日でもいいじゃないかと思っている)、彼女の目を見ていたら俺に止める余地なし。口を挟まないことにした。


彼女はヨウの頼みを聞くとばかりに頷いて、怖々口を開いた。