なあ、ココロ。


どうしてそんな風に俺を煽るのかな。

地味っ子でもさ、フツーっ子でもさ、俺は男だよ。

人並みの欲は持っているんだよ。どうしてそうやって煽るかなぁ。すっごく困るんだけど。


無意識に口に出していたみたいで、ココロは心外だとばかりに口をへの字に曲げてくる。


「ケイさん、私だって女です。人並みの欲くらい持っています。言われるほど……いい子じゃないですし……清楚な性格でもありません。ケイさんのことだと我が儘にもなります。期待しちゃ駄目ですか?」


皺が寄るくらいブレザーを握り締めて見上げてくるココロに、俺は目を細めた後、小さく苦笑した。

勘弁してくれよ、ココロ。


そんな風に言われてさ、地味っ子さんも平然としてられるほど大人じゃないんですよ。


俺も男、オトコなんだよココロ。

好きな女に触れたいと思う、一端の男なんだよ。


それこそ個人差はあるし、触れたいという意味合いも個々人で違う。

不良達からしてみれば俺の思う触れたい気持ちなんてお子ちゃま同然かもしれない。


いや、お子ちゃまなんだろうな。触れたいのレベルは極めて低い。

だけど触れたいには違いないんだ。


「知らないぞ?」


取り敢えず、最後の防波堤を張ってみる。


「期待をしたいんです」


簡単に防波堤を崩すココロに、もう知らないんだと俺は心中で呟いた。

こんなにも防波堤を張ったのに、簡単に崩してくれちゃってさ。


ココロも同罪だからな。

俺だけの責任じゃないんだからな。責任は折半なんだからな? 後でウダウダ言われても、俺、怒るだけなんだからな?


ゆっくり、というよりは無造作で荒々しい動作だったと思う。

焦っているわけじゃない、昂ぶりがそうさせているんだ。


細い腕を引き、片手を柔らかな頬に添えると、ちょっと勢いづけて、薄い肉付きの唇に重ね触れる。


爆ぜた欲望は留まる事を知らず、無意識に逃げようとする頭を固定して彼女の呼吸を奪う。

彼女の華奢な手が伸び、背中に回った。


距離がなくなる。

角度を変えると、どちらつかずの吐息が漏れた。




まるで夢のような時間。




相手のやさしいぬくもりを感じ、酔いしれ、甘い吐息を漏らす。


ただ唇を重ね合うだけの行為は一瞬だったのか、それとも数秒の間があったのか分からない。


でも俺達は確かに倉庫裏で互いの唇を重ね合わせていた。


馬鹿みたいに緊張して、互いの温度を共有するように唇を重ねていた。



遠くから聞こえる風の音、真上を通り過ぎる飛行機の音、倉庫内で話しているであろう仲間達の微かな声を耳にしながら。



離れる際に視線がかち合う。

気恥ずかしそうに笑う彼女に笑みを返し、俺は再び前髪をかき分けて唇を落とした。


赤面する顔を隠す彼女は、猫のように甘えて肩口に顔を埋めてしまう。


初めてのキスの味はちょっとしょっぱかった。うん、ココロの流した涙の味がした。


誰かが言っていた、初キスはレモン味……じゃあ俺達はなかったけど、これはこれで思い出に残りそうな初キスだと思う。


「ケイさん」


顔を上げた彼女とおでこをくっ付けてじゃれ合う。

恋人となって初めて“恋人”らしいスキンシップを楽しんだ。

意味深な視線を送られる。

気持ちを察した俺は羞恥をそっちのけにして言葉を紡いだ。


「好きだよココロ。大好きだ」


決着がついたら彼女ともっとスキンシップを楽しみたいな。