ヨウと二人きりになれたのは満月が顔を出している夜のこと。  


今日はこの辺で解散、その言葉によってチームメートは各々帰宅して行ったんだけど、倉庫裏でチャリの鍵を解除している最中、薄汚れた窓の向こうでいつまでも動こうとしないヨウの姿を見つけて帰宅を中断。



倉庫に戻って、壁に背を預けて胡坐を掻きながら煙草をふかしている舎兄に歩み寄った。 



古びた照明を見上げているヨウは俺の気配に気付くことも無く、短くなっていく煙草の灰をろくに落としもせず、物思いに耽っている。


俺は舎兄の隣に腰を下ろして、放置されているひしゃげた煙草の箱を拝借。

煙草を一本抜き取って、同じ場所に放置されている百円ライターで先端を焼いた。


人生二度目の煙草チャレンジ、不良チャレンジは、一度目と同じくあえなく撃沈。盛大に咽た。


くっそう、やっぱ俺、不良になれないみたいだ。煙草って何がいいんだよ。にっげぇだけだし!



田山圭太の舌はお利口な作りをしているみたいだから、煙草の味が受付けられねぇ!


さすがに舎兄も気付いたのか、



「何しているんだ? それ俺の煙草だし」



ヨウは俺の様子に微苦笑を零していた。

うぇっと舌を出して、煙草の不味さと格闘している俺は涙目になりつつ、


「一緒に一服したくてさ」


こうして吸っているんだと舎兄に笑ってみせた。


「そうか」


目尻を下げるヨウだけど、その顔にいつもの元気は見えない。


二人っきりだということもあって幾分素を出しているみたいだ。まだ我慢はしているみたいだけどさ。


ふーっ、俺は紫煙を吐き出して小さく笑みを作った。


「そうリーダー面しなくてもいいじゃんか。今は舎兄弟の時間を楽しもうって。俺とお前しかいないんだから」
 
「んな顔をしているか?」


「自覚が無いなら、お仕事熱心にも程ありますよ兄貴。どーしたんだ。元気ないぞ」


ポンっと肩に手を置いて、俺は率直にヨウの気持ちを聞く。

まどろっこしい遠回しな尋ね方より、こうやってストレートに物を尋ねた方が舎兄にも気持ちが伝わりやすいと思ったんだ。


それに、お前が教えてくれたんだぞヨウ。


心配よりメーワクを掛けろって……落ち込んでいる俺にお前が教えてくれた。


今度は俺の番だ。

ヨウが俺にメーワクを掛ける番なんだよ。


此処には誰もいない、俺とヨウの二人だけだって再三再四教えてやる。


少しくらい気を緩ませてもいいんじゃないか、俺はお前の舎弟。背中を背負(しょ)っているんだ、半分くらい分けろって。お前の今の気持ち。


俺の言葉にヨウは力なく笑って銜えていた煙草の灰を地に落とした。



「なんか……怖ぇんだ。すっげぇ怖い」



何が怖いのか、ヨウは具体的なことを教えてくれない。いや、言葉が見つからないのかも知れない。

怖いんだと恐怖を口にするヨウに、

「ハジメのことか?」

言葉を重ねて質問。

生返事を口にして、舎兄は煙草を銜え直した。


「ハジメを守ってやれなかった。俺、あいつに言ったんだ。誰が欠けても嫌だって……なのに守れなかった。リーダーなのに」


「馬鹿。お前のせいじゃないって。あれは……ハジメを襲った奴等が悪いんだ。
ハジメを利用したかったんだろうけど、あいつにもプライドがあるからさ。チームのため自分のために……逆らう道を選んだんだ」


「仲間を守れないリーダーなんてリーダーじゃねえ」


ヨウは自分を諌めるように吐露、言葉を吐き捨てた。

ハジメに重傷を負わす前に、助けられる手立てがあったんじゃないか。


もっと別の道があったんじゃないか。


項垂れるヨウは堰切ったように俺に気持ちを吐いた。

腹の底から搾り出すように、自身を苦しめている気持ちを吐き出し始めた。

怖いんだと繰り返すヨウは、


「大事な仲間を失った」


クシャッと顔を顰める。