弾かれたように俺等は倉庫の出入り口を見やる。


そこには変に曲がっている左腕を押さえて、出入り口の枠に寄り掛かっている捜し求めていた仲間。


青痣は目立つし、口端は切れているし、こめかみから血が出ているけど、腕も変に曲がっているけど、俺の知っているハジメ張本人だった。


送られてきた画像よりもこっ酷い姿をしているシルバー髪の不良は、


「シンドイ」


吐露して、右の手で持っていたブレザーをその場に落とすと一歩、また一歩足を前へと動かし始める。


「ハジメ……」


震える声音で逸早く駆け出したのは弥生だった。遅れて俺達も駆け出す。


駆け寄ってくれる弥生に気が緩んだのか、ハジメはつんのめって姿勢を崩してしまう。
間一髪で彼の体を受け止めた弥生は、


「ハジメ! 大丈夫? 大丈夫じゃないよねっ、酷い怪我をしているよね」


矢継ぎ早に捜し求めていた思い人に声を掛けていた。

弥生の肩口に顔を埋めて反応を返さないハジメだったけど、ふと掠れた声で思い人にポツリ。



「会いたかった……ずっと弥生に会いたかった」



それだけ零して全体重を弥生に委ねる。 

「馬鹿……」

弥生は本当に馬鹿だと叫んで、ハジメの体を抱き締める。

昼休みからずっと待っていたのだと金切り声で叫んだと思ったら、ワッと泣き出して馬鹿の連呼。

どうして居場所を教えてくれなかったのだと泣き崩れる。


そうしたらもっと早く助けに行けたのに、こんな酷い怪我をせずに済んだのに、もっと早く会えたのに。彼女は泣き喚いた。


「ハジメの馬鹿、心配かけるハジメなんて大嫌いだよッ!」


大嫌いだと腹の底で叫んだ後、弥生はそれ以上に大きな声で叫んだ。


「でもやっぱり大好きなんだよッ、ハジメの馬鹿――うわぁああああアアアア!」


弥生の告白は喪心している相手には受け取ってもらえず、無常にも倉庫に散らばった。


ショックのあまりに泣き崩れて声にならない声を吐き出す弥生は、ハジメの体を抱き締めたままその場に蹲る。


「弥生ちゃん」


ココロが両膝ついて弥生の肩を抱く、一方で響子さんが救急車を呼ぶからと携帯を取り出して輪から離れた。

俺は見てしまった。
響子さんが悔しそうに涙ぐんでいる、その表情を。 


俺自身も痛々しいハジメの姿に泣きたくなった。

憤りたくもなった。

辛さの余りにその場で咆哮したくなった。


けど、実際に俺ができている反応は震えのみ。

怒りに震えるしかなかった。


友達をこんな風にメチャクチャにされて、こんなにも怒りを覚えたの初めてだった。友達だからこそ、こんなにも怒りに震えるんだ。


ハジメ……ごめん。

間に合わなくてごめん。

こんな無様な姿にさせてごめん。

雨の中、歩かせてごめん。


俺等が不甲斐ないばっかりに、助けるどころか、何も出来ず終わっちまった。


でもお前、帰って来たかったんだよな……俺達の下に。   


散々チームを抜けるかどうか迷って卑屈になっていたお前だけど……やっぱりチームの皆のことが大好きだったんだろう?


俺がチームの皆のことを大好きだと思っているように、お前も……どんな目に遭ってでも、それこそ体を引き摺ってでも戻って来たかったんだろう?


だってお前も、



「ああぁぁあああアア! ハジメっ、ハジメ――ッ!」



かけがえのない、立派な俺等チームのメンバーなんだから。

弥生の悲鳴交じりの泣き声を聞きながら、俺は天井を仰いでそっと目を閉じる。


ハジメ、お前の大好きな人が泣いているぞ。涙くらい拭ってやれよ。


気を失っている場合じゃないだろ……嗚呼、畜生、倉庫の中でも雨が降って来てやがる。

外も雨で中も雨ってどういうことだ。



なあ、ハジメ。




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