ヨウは改めてモトに目をやり、肩に手を置く。


「何でそんなに機嫌悪いんだ、モト。普段ならこんなこと絶対しねぇだろうが。今日のお前、三倍不機嫌じゃねえか」

「べ、別に……オレは舎弟が気に食わなくて」


「モトちゃーんが狙っていた中古のゲーム、先に買い手がついちゃったんだってー」


後ろからワタルさんの声が聞こえた。

振り返ればやっぱりワタルさんがいた。

エスカレータで上って来ているところだった。


どうやら今まで二階でゲームに勤しんでいたらしい。

ニヤニヤと笑いながらワタルさんが俺達のところに来た。


「モトちゃんが喉から手が伸びるほどやりたがっていたゲームソフト取られて、さっきまで嘆いてたんだヨヨヨ~ン」


だから機嫌が悪いんだよ、とケラケラ笑ってくるワタルさん。


相変わらず口調が一々ウザイ。


ってか、じゃあ何か?


俺はゲームが買えなかった鬱憤をぶつけられていたのか? そりゃあんまりじゃねえかよ! 舎弟とかそんな話以前の問題だろそれ!


不機嫌の理由が分かり、ヨウも心底呆れているようだった。

居た堪れないのか口を尖らせながらも言い訳を始めるモト。


「誰かに借りようと思っても、誰も持ってなかった限定ソフトが五千で買えたんですよ? しかも全シリーズ合わせて五千! なのに取られて…」

「だからってケイに当たるんじゃねえよ」

「オレ『パーフェクトストーリー』がしたくて堪らなかったんです。なのに取られて悔しかったんです。誰か持っている人を紹介して下さいよ!」


嘆くモトに、ヨウは呆れ返って言葉も出ないようだった。


「んなの俺が知るか。テメェで探せって」

「結構難しいと思うぜ、ヨウ。『パーフェクトストーリー』は期間限定でしか販売しねぇレアなRPGソフトだもん。予約しねぇ限りなかなか手に入らないし」

「ケイ。お前、詳しいな」


「だって俺も持っているから。パーフェクトストーリーのⅠからⅣまでの全シリーズ」


実は結構ゲームする方なのだ。ゲーマーというほどでもねぇけどさ。

するとギャーギャー嘆いていたモトが目を皿にして俺の方を見てきた。


ヤバッ、余計なことを言っちまった。

ヨウの舎弟になっている気に食わない俺がソフト持っているなんて、モトにしちゃ腹立たしいよな。


愛想笑いを浮かべながら、話題を逸らすためにワタルさんに話し掛ける。


「朝はメールどうもです。寝ちゃってすみません」

「いいよーいいよー。僕ちゃーんの伝言を覚えてくれていただけで。ケイちゃーん、盛っていたもんね」

「も、盛っていません! ついでに言っちゃなんですが彼女いません!」


「分かっているって。ケイちゃーんはからかい甲斐あるなぁ」


俺は嬉しくねぇから!


ワタルさんに反論できず(勿論恐いから)ヤキモキしていると、シズから携帯の着信音が聞こえた。

シズはダルそうに欠伸を噛み締めながら携帯に出ていた。

煩いゲーセンでよく電話なんか出来るな。

感心していると、シズは眉根を寄せてヨウやワタルさんに視線を向けた。



「弥生(やよい)からだ。ハジメと一緒にコンビニに向かっていたら、奴等に喧嘩吹っ掛けられたらしい。今、川岸の廃工場に逃げ込んだらしいがハジメだけじゃ対応できない人数らしい」



奴等?


それは一体、誰を指しているのだろうか。

弥生、ハジメ、という奴はヨウ達の仲間だって分かるけど。