ワタルから『死亡でもおいでよんサマ』とメールが来たため、『這って行くよんサマ』と返し、メールをくれた皆にも一斉送信で昼前には学校に行くことを伝え、家を出た。


二階建一軒家に住んでいるハジメは、新築のように綺麗な我が家に背を向けると、ビニール傘を片手に早足で歩き出す。


早く皆に会ってこの気鬱を晴らしたい。

特に弥生と、早く顔を合わせたいものだ。


彼女と顔を合わせるだけで二日酔いなど吹っ飛びそうだとハジメは心なしか表情を崩す。


綻ばれるだけで、こっちも綻びたくなる。


と、まあまあ、ここまで彼女を意識する自分も重症のようだ。



(弥生のことを好きって自覚もあるし、意識しているのも分かっている。弥生が僕のことを好いているのも知っている。向こうも気付いていると思う。皆が僕の気持ちを察していることも分かっている。だけど……だけどなぁ……)
 


最近、弥生の期待を含む瞳がこちらに向けられる。

もしかしたら……いや、そろそろ気持ちを伝えてくれるのではないか。

話し掛ける度に、話している合間合間に、そう期待の宿った瞳がよく自分の胸を締め付けてくる。困ったものだとハジメは溜息をついた。


自分はその気が一切ないのに、その目にやられて思わず……危うく気持ちを漏らしそうになることがあるのだ。


弥生がやけに期待の眼を向けてくるのは、仲間内にカップルが誕生したからだろう。 
 

チーム内に誕生した地味っ子組の初々しいカップル。

こちらが思わず羨んでしまうほど幸せそうに会話している姿を、よく目にしている。


あの引っ込み思案だったケイが舎兄か響子辺りに助言され、後押しされてココロに告白。


そうして誕生したカップルの影響の波に乗ってくれるのでは、弥生は自分に大きな期待を寄せてきているのだ。

痺れて向こうから気持ちを告げてくるかもしれない。


そうしたら自分は……。


足を止め、ハジメは道に転がっている潰れかけのペットボトルを爪先で小突いた。


ケイが羨ましい。

弱さというネックを乗り越えてココロに告白する勇気を持っていたのだから。


それに引きかえ、自分ときたら、あの時の袋叩き事件が尾を引いているために彼女へ気持ちを告げることに怖じている。


もしも告げて、そういう関係になったとしても……袋叩き事件のように彼女を守れなかったら。仲間の手を煩わせてしまったら。


足手纏い、落ちこぼれ、劣等感という名の呪縛が自分を支配する。


こんなにも自分を許せないのは、本当は劣等感からではなく、彼女をあの時、自分の手で守れなかったことにあるのかもしれない。


不器用でも不恰好でも無様でも、あの時、彼女を自分の手で守る事ができたならば……彼女だけでもあの現場から逃がすことができたならば……仲間達の下に送り返すことができたのならば……自分をここまで卑下することはなかったかもしれない。


劣等感に苛むこともなかっただろう。



好きな女を守ることが出来なかった現実を悔やんで、自分をいつまでも責め立てているのだ。そうハジメは自身を分析した。


「負けず嫌いなのかも、僕」



頭部を掻き、いつの間に止めていた足を動かす。