「なんでそこで弥生が」



苦虫を噛み潰す顔を作るハジメだが、ヒトリで佇んでいる弥生が気になったのか向こうへと歩んで行く。

「鈍ちゃん」

ヨウは小さく肩を竦めて、短くなりつつある煙草を銜えた。


「弥生は羨ましいんだよ。ケイに告白されたココロが。テメェもさっさとしちまえってんだ、ヘタレド阿呆」


ある種、ジミニャーノ組よりも厄介な片思い組かもしれない。ハジメと弥生は。

だがヨウ自身、そんなハジメや弥生を羨ましく思う事がある。


何故ならば一歩を踏み出そうとしない彼等でさえ、ああやって好きな奴の傍にいられるのだから。


こっちなんて顔を合わせれば畜生と苛立つわ、離れたら離れたで苛立つわ、向こうの男に抱かれていると思うだけで舌を鳴らしたくなるわ……散々だ。


「ま、手前で招いた結果だしな。仕方が無いか。しょっぺえな、俺のセーシュン」

「盛大な……ふぁ~……独り言だな」


大きな欠伸を噛み締めつつ、自分に声を掛けてきたのは副頭。

たった今、たむろ場に到着したのか、肩にはぺったんこの通学鞄。

手にはコンビニ袋、中身は買ったばかりのお菓子類。


「しょっぱい青春の……お前に」


お優しいことにチュッパを恵んでくれた。味はコーラのようだ。

どうでもいいが、完全に茶化しと皮肉が篭っているだろう。このお恵み。

「ドーモ」

優しさを受け止め、煙草を地に落とすと靴裏で揉み消し、封を切って大きな飴玉を口に銜えた。

まったくもって甘い。

煙草を吸っていたせいか、口内に広がる甘味がより甘く感じる。


「平和だな……こう暇だと……眠くなる」

「テメェはいつもだろうが。マジで平和だな……こう平和だと色々考えちまうな。対立の渦中にいるからこそ、この平和は不気味だ」

「ふぁあ……ねむっ……同感。同じ事を考えていた」


「そうか」


相槌を打つヨウは、眠そうに欠伸を噛み締めているシズと共に仲間達を見つめる。


今は和気藹々と騒ぎ、平穏な空気を作っている仲間。


この仲間達を大切にしたいと思う反面、この先に待っている末路は自分達にナニを与えてくれるのか、ヨウは未来に少々恐怖を感じていた。

最近の日常が平和だからこそ余計に不安を煽る。

考え過ぎといえば、考え過ぎかもしれないが。


何事も無い日常を過ごせるといい。この日常が続けばいい。



ヨウは強く、願った。






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