呆気に取られていたのはハジメだった。

すぐに息を吹き返し、「君は不思議な人だね」柔和に綻ぶ。


「どうして、そうやって人の不安を融解しちゃうのかな。昔からそうだ。ヨウは人の心に不法侵入してくる。ほんと……訴えたくなる」


「おい、随分な言い草だな。そこは素直に褒めてくれねぇのかよ……なあハジメ、テメェは俺の仲間だ。言っておく、
何があっても俺はテメェを信じている。
テメェがどういう気持ちでチームにいるのか知らねぇし、どうして弥生に告ろうともしねぇでヘタレを見せているか、俺には全部を理解してやることはできねぇ」


「ヘタレは余計だよ。自覚ありだけど」


「手前の弱さで心苦しい思いをしているなら言えばいい。
そうやって俺の前で卑屈を零せば言い。何度だって聞いてやるよ、仕方ないからな。

チームメートの前にダチだってことを忘れるな。
ちなみに卑屈ばっか言って、『ボクなんてもうチームに不必要な存在なんだウェーン』なんざ泣き言を漏らしたら、その時は容赦なく一発張り手だかンな。

話は聞く、んで目覚めに一発かます、至れり尽くせりの俺って超ヤサシー」


「優しくないの間違いじゃないかい、それ?」


「俺は貪欲だから、誰が欠けても嫌なんだよ。
こうしてチームを結成して、チームの中心になって……なんっつーか、改めて仲間っつー大切なモノを考えさせられている。あーあ、俺もイイ青春をしているぜ。クッセーの」


隣で笑声を漏らし、「本当にね」言っている事が一々クサイ、とハジメ。


しかし言葉に茨は纏っていない。

賛同してくれるような柔らかな声音で返答してきてくれる。


「仲間か」


ハジメは軽く目を瞑り、その瞳を瞼の裏に隠して口を動かす。


「ヨウ、実を言うと僕は少し、物の考え方が変わってきているんだ。相変わらずの捻くれ思考は持っているけど、チームメートが散々僕を持ち上げてくれるから……此処にいてもいいかなと思える気持ちにはなっている」


自分はチームの中でも弱い。

だから以前、ヤマト達に狙われて袋叩きにされた。弥生にも怖い思いをさせた。


それが許せなかったのだとハジメ。

弥生さえも守れない、仲間の手を煩わせてしまう自身が。


頭が使えても守れないと意味なんてない、仲間の足を引き摺っている、何もできない自分は落ちこぼれだ。


そう思っていた。

いや、まだ思っている自分がいるのだと彼は吐露する。


「弱い自分を許せないから、どっかの誰かさんに告白すらできないんだろうね。
それこそ僕は弱いんだと思う――そんな僕でも、必要としてくれる仲間がいるから僕は卑屈になりながらも此処にいられるんだと思う。
仲間の一員、そう思うくらい許してもいいんじゃないか……そう思えるようになった。人はこれを進歩、もしくは前進と呼ぶのかもしれない」



「まどろっこしい言い方すんじゃねえよ。俺にこれ以上、頭を使わせるな。知恵熱が出るっつーの」



ヨウはハジメの首に腕を回し、

「難しく考えるなって」

相手に笑顔を向ける。

片手で銜えていた煙草を持ち、ゆっくり紫煙を吐くと向こうではしゃいでいる仲間達を顎でしゃくった。


「テメェもあそこで騒いでいる奴等と一緒、欠かすことのできねぇ奴だ。変に考え込んでも一緒だと思うぜ、インテリ不良くん。仲間、それでいいじゃねえか」

「ヨウみたいに単純になってみたいよ」

「へーへー。褒め言葉はそれくれぇにして、おらっ、そこで弥生が待ってっぞ。行って来い」


「え? ちょ、ちょ、ちょ……ッ!」

 
ハジメの強く背中を押して、向こうでポツンと倉庫の壁に背を預けている弥生のところへ行って来いとヨウは口角をつり上げた。