【もしもし、電話中】



もしもし? ああ、義兄さん。


いつもの、あーはいはい、報告だろ?


まったく、いつもいつも僕をパシってさ。

僕は今年受験なんだけど?


少しは義弟を労わって欲しいね。


僕にとってはどーでもいい話だし、大体無関係だろう?


人使いが荒いっていうか、義弟使いが荒いというか、さっさと僕はこの役目を終えたいというか。


まだ計画を実行しないの?


計画を温存は勝手だけど、向こうも察しがいいから、そろそろ気付かれてもおかしくないよ……あーあーあー、分かったよ。ゴタクはいいから報告だろ?


まずは荒川チームが『エリア戦争』に加担したらしいよ。



あ、うん、そうそう。



日賀野チームは『エリア戦争』に直接的には加担していない。

間接的には関わってたみたいだけどね。

榊原って聞いたこともないチームと協定結んでたらしいけど、一方的に切られたっぽい。


珍しいこともあるよなぁ。

日賀野チームを参戦していれば、『エリア戦争』の勝敗は榊原チームに転がったかもしれないのに。



荒川チームは浅倉ってチームと協定を結んでいるらしいよ。

浅倉チームって弱小チームらしいけど、再結成するとかしないとか。


ちなみに『エリア戦争』の勝者ね。

今、商店街の『廃墟の住処』を支配している。

『廃墟の住処』ってのは元々は池田チームが占領してた、あの寂れた商店街のことだよ。


今のところ報告はそんだけ。

もういい? 勉強を再開したいから。


また何かあったら連絡するよ。じゃあね。





――ツゥーッ、ツゥーッ、ツゥーッ。






携帯を閉じた男はやれやれとばかりに、肩を竦めて調べかけの英単語を検索するために電子辞書の電源をONにした。

眼鏡のブリッジ部分を押し、その男、生徒会長と肩書きを持っている須垣誠吾はシニカルに笑みを浮かべた。



「どーでもいいよ。荒川達がどうなろうと、日賀野達がどうなろうと、義兄さんがどうなろうと、僕は不良なんて大嫌いだから」



だって不良なんかみーんなジコチューじゃないか。

モラルもマナーも守らないし、私生活もなっていない。馬鹿騒ぎしては警察沙汰になったり、チャラチャラ男女で営みをしていたり。

ふしだら極まりないったらありゃしない。


全員で潰しあって滅べばいいんだとさえ思える。


「滅ぶことが不可でも、僕にとって一番利益のある奴等が残ってくれればそれでいいかな。さあて、誰が残るんだろう? ちょっと見物だな」


傍観者になりつつ、勉強でもしましょうかね。

学生の本分はオベンキョウ、自分は国立を狙っている故に勉強時間は欠かす事ができないのだ。


誠吾は忍び笑いを浮かべながら、電子辞書でアルファベットを打っていく。



f o r e s e e a b l e




「んーっと意味は“予測可能な”。“予知できる”……ははっ、これって何のお告げだろうね? ま、僕でさえ、これから先のことは予測できないよ。誰がどうなろうと僕の知ったこっちゃないけどね」




笑声を漏らす誠吾の笑みは限りないアイロニーが含まれていた。




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