救いの目を向けるように副頭のススムに目を向ければ、「ぶふっ!」盛大に笑いを押し殺している副頭の姿。


普段からクールな空気が取り巻いていることを自覚している故に声に出して笑うことをしないススムだが(声に出して笑えば凄い笑い声になるのだ)、何か面白いことでもあったのか、必死にソファーの背凭れにしがみ付いて笑いを押し殺している。


「まーた笑ってるよ」


向かいの一人用ソファーで爪を研いでいるホシが肩を竦めた。


「いい加減に思い出し笑いから離脱したら? 不気味だってススム」

「いや……ふとした拍子にっ……習字話がっ、ぶふっ」


「あーもう。どんだけー。ススムの似非クール」


バカみたいだと鼻を鳴らすホシだが、『習字』というキーワードに逸早く反応したのはヤマトだった。


「プレインボーイに会ったのか?」


満ち溢れんばかりの期待を籠めた問い掛けに、

「奴は強敵だ」

ぜぇぜぇとススムは笑いを噛み締めて声音を震わせる。


「今から……敵になろうとする相手に、あそこまでこと細かく習字を……説法するとは……恐るべしだな。荒川の舎弟は」

「なんだよ、プレインボーイにあったのか。あいつはオモレェからな。あー、やっぱ切ねぇ。ゲームを逃したなんて……マージ切ねぇ」


大きく溜息をつくヤマトだったが、ふと一室をぐるり。 

“あいつ”がいないことを確認したヤマトは蓋の開けていない缶ビールと飲みかけの缶ビールを手に持ち、腰を上げて、少し外に出て来ると仲間内に断りを入れた。


ヤマトが何処に行くのかは皆察しがついているために、誰も何も言わず。


ヤマトもそれ以上のことは言わずに木造の扉を押し開ける。


バーを出ると早足で地上に続く視界の悪い階段をのぼり、出入り口右横すぐの壁際に目を向けた。


そこには、ジベタリングをしてぼんやりと煙草をふかしている仲間の姿。


彼は最近、皆とまじろうとせず、此処で煙草をふかすことが多い。

ほかに何をすることもなく、ただただ煙草だけを消費している。


無言で彼の前を素通り、隣に腰を下ろして地面に放置されている煙草の箱を拝借。


一本抜き取って、そのまま相手の吸っている煙草の先端と自分の持っている煙草の先端を合わせた。


「ん? っ、ヤマトさっ……!!!」


一連の動作でようやく自分の存在に気付いたケンは、素っ頓狂な声を上げて此方を見てくる。


「動くなっつーの。火が点かないだろうが」


だったら普通にライター貸すんですけど。

眼で訴えてくるが綺麗に無視して、ヤマトは十二分に焼けた先端を確認すると口に銜えて軽くふかす。

「付き合え」

ぶっきら棒に、未開封の缶ビールを投げ渡し、自分の分で喉を潤す。

「どーもです」

会釈してくるケンは、有り難く頂くと差し入れの蓋を開けた。


「ケン、お前が決めることだ。誰も何も言わない。俺も、な」


何を決める、は口にしない。

口にするまでもないと思ったのだ。

「居場所を取らないで下さいよ」

苦笑を零すケンは、それ以上のことを言わなかった。