【商店街外れ・とある一角にある地下のバー】



「はぁ……あーりえねぇ。荒川達が『エリア戦争』に関わっていたなんざ。それを知らず、ノウノウ別の喧嘩に行っていたなんざ。一杯食わされた気分だぜ。

あーあ、折角のゲームが。楽しめるゲームがぁ。
これも全部、榊原が悪い。なんだってんだあいつ。あ゛ーアリエネェ」



日賀野大和改めヤマトは、心躍るであろうゲームを逃した切なさに気分を低空飛行させていた。


ソファーの肘掛に肘を置き、


「ねぇよな」


缶ビールを片手に先ほどからゲームを逃した心情をタラタラ垂れ流している。珍しくも落ち込んでいる様子。


だがしかし、理由が理由なために彼の隣に腰掛けている帆奈美は呆れたように肩を竦めて梅酒を口元に運んでいた。


「男は皆、物騒」


喧嘩以外に考えることはないのかとむすくれている。


「おやおや不満か? 昨日散々オサカリしたんだけどな」


落ち込んでいてもさすがは我等のリーダー。

意地の悪さだけはドS級だ。


意地の悪い発言をするヤマトに、フンッと鼻を鳴らしてご機嫌ナナメを訴える帆奈美は噛み付くようなキスを相手に食らわせ、梅酒で喉を潤す。


間を置いてヤマトは足を組み、笑声を漏らす。


「ほぉ。お姫さんは欲求不満のよーだな。なんだ、構って欲しいのか?」

「そうだと言ったら?」


あくまで気丈に振舞う帆奈美。

「喧嘩ばかりツマラナイ」

愚痴まで漏らす始末。


「ハイハイ。だったらちょいと慰めてやりましょーかね」


ペロッと上唇を舐めて行動を起こそうとするヤマトに、


「ストーップぅううう!」


全力で待ったを掛けたのはカウンターに腰掛けていた伊庭である。


忘れられている可能性もあるため、説明しておこう。

伊庭三朗、仲間内からは“サブ”と呼ばれている男でシズを敵視しているアンド、タコ沢に『イカバ』と呼ばれ、暑苦しく対立していた奴である。


「此処でサカるのはやめてくれよ! TPOを考えてくれ」


サブは嘆いた。

こんなところで盛られても困るし、この室内にいる者達はどうなるのだ。


仲間内に公開プレイをしたいのならば、それはご免である。他をあたってくれ。


サブの訴えに、「わーってる」此処じゃしねぇよ、とヤマト。


「後でちゃーんと家にお持ち帰りするから」


なんぞとキャツは言うがサブが止めに入らなかったら、悪戯本位であっらやだなことをしていたに違いない。


ABCの段階でいけば、AとBの狭間程度の戯れ合いをこの場でしていたであろう。分かっていたからこそ、サブは全力で止めに入ったのだ。


「ったくもう」


愚痴るサブは、余所でほんの少しガッカリしている帆奈美を流し目。

ガチな話、本気で勘弁してくれ、サブはガックシと肩を落とした。




「わぁあああ! 今、たっくんから『アイシテル』って言われたぁあああ! もぉおおイケメンすぐる! 抱いてぇえええー、アズミ抱いてぇええ!」




向こうは向こうで黄色い悲鳴。

サブはカウンターの向こうではしゃいでいる仲間、関あずみに視線を向けた。


乙ゲー大好きなアズミは携帯型ゲーム機の画面に向かってへにゃりと蕩けた顔を作っている。駄目だこりゃ。


二次元ワールドで恋愛してらぁ。

どーでもいいが、悲鳴自重しろ。痛いぞ。

誰かまともな奴はいないのか、まともな奴は。


そうだ、向こうのソファーで酒飲んでる副頭がいた筈!