「――蓮っ、なあ蓮、しっかりしてくれよ! どうして俺にっ、一言相談してくれなかったんだよ。おりゃあいつもそうだ。失って初めて気付く。今も、あの時も!」

「浅倉……」


ヨウに体を支えてもらいながら“エリア戦争”の現場に足を踏み入れた俺は、悲痛な嘆きを口走る浅倉さんを仲間と目の当たりにしているところだった。


俺達が戻ると既に榊原チームとの喧嘩は終わっていた。

地べたのあちらこちらで榊原チームや協定の不良が倒れている。


中には浅倉チームに属している不良もいるようだ。


ある意味、凄惨な光景だと言える。


それらに目を伏せつつ、浅倉さんに視線を戻すと、俺とハジメを助けてくれたあの不良がこめかみから血を流し、ぐったりと頭を垂らしていた。


「最初からおめぇは俺を勝者にしようと……ふざけるなよ。こんな勝利、誰が喜ぶんだ?」


本当に阿呆だ。

阿呆過ぎて悪態も出ない。

浅倉さんは行き場のない苛立ちを自分の太ももにぶつけていた。


拳を振り下ろし、何度もぶつけていた。


桔平さんや涼さん、それに向こうチームの仲間が浅倉さん達の下に足先を向ける。


その面持ちはただただ哀しい。



「……これが俺等の望んでた勝利、だったのかな。ヨウ」



実質……俺等の勝ちだというのに、まったく勝利に喜べない光景。

ヨウも同じみたいで、無言で光景を見つめている。


俺は初めて知ることになった。


喧嘩に勝つ。

それがすべてじゃないし、勝ったからと言って終わりでも始まりでもない。


喧嘩に勝って喜びを得られるものもあるけど、喧嘩に勝って得られない、寧ろ後味の悪い勝利もあるんだと。


元々仲間同士だったチームが分裂。喧嘩の果てに待っていたのは、勝利に酔えない複雑な光景と人間模様。


蓮さんはどういう思いで、榊原チームに身を投じていたのだろう?


「夕陽が眩しいや」


俺の呟きは空気に溶けていく。

沈んでいく夕陽は勝者にも敗者にも優しくない、ふてぶてしい顔色で俺等を赤々と染め照らしている。

まるで愚かな喧嘩をした俺等を咎めているように、無愛想にいつまでも赤々と染め照らしていた。





その日の夕暮れ。


北を支配していた浅倉チームは協定を結んだ荒川チームと共に、南を支配していた榊原チームに勝利。


東西を支配していた刈谷・都丸チームもお互いに衝突し合って相打ち。


その上、浅倉チーム勝利の一報、荒川チームとの協定話を耳にして降参。


弱小と呼ばれていた浅倉チームは晴れて、『エリア戦争』の勝者となった。


ぬめぬめしているような後味の悪さを噛み締めながら、『エリア戦争』の勝者として名を挙げることになった。


⇒#11