代わりに動いたのは蓮の舎兄。


彼、浅倉和彦は仲間の傷付けられるその光景を目の当たりにして、ただただ腹立たしかった。


血を流す舎弟に己の方が痛みを覚えるほどだ。



横っ腹の痛みなど念頭にもなく、素早く立ち上がるそのバネを利用して向こうにまずは一発ストレートを入れる。


怯む相手が鉄パイプを振り回そうが、素手で受け止め、懐に入ると頭突き。


此方にも些少ながらダメージを食らうが、気にする余裕もない。



(一気に畳み掛ける)



小手を狙って鉄パイプを叩き落し、左右フック、そして顔面に拳を入れて体を飛ばした。

向こうが転倒する際、歯が二、三本、宙を浮いた気がするが、不確かな光景だった。


榊原が倒れると同時に、血の滲む拳を拭うこともせず、浅倉は舎弟の下に駆けた。


「蓮!」


膝を折って、崩れている舎弟に手を掛ける。


目を白黒させている舎弟は、正気に戻ったようで浅倉の優しさを拒むように自力で起き上がろうとするが体が言うことをきいてくれないようだ。


抱き起こす浅倉の腕の中に沈んでしまう。


なおも動こうとする舎弟に頼むから動くなと浅倉がすると、


「終わらせないと」


すべてを終わらせたい、彼はうわ言を漏らす。


仲間が終わらせるために走っているというのに、自分が動かないわけにはいかない。いかないのだ。


蓮はくしゃくしゃに顔を歪め、痛みに呻く。



「和彦さんっ……貴方の、勝ちですよ。もうすぐ榊原チームは終わる。寄せ集めの、チームなんて結局脆いもの……なんですよ」



頭が倒れた今、このチームは崩壊するだけとなった。


このエリア戦争は浅倉和彦とそのチームが勝つのだ。


弱小チームと嘲笑された浅倉チームは今、王者として名を挙げようとしている。


なんて喜ばしいのだろう。


蓮は微かに笑みを作ると、胸を撫で下ろしたように安堵の表情を零す。

「とどめをっ」

自分もまた榊原チームの端くれ。どうかとどめを刺して欲しいと蓮。


できるわけないではないか。


そう返しても、彼は終わりを羨望してくる。


どうしても終わりたいのだ、と。




「全員……ぶちのめして、エリア戦争の……勝者に……」




浅倉はすべてを察した。

舎弟は最初から自分に心を置いていたのだと。

榊原についた振りをして常に味方だったのだと。


「ばっきゃろう。蓮、おめぇはほんとにっ……」


どうして自分は舎弟の本心にいつも遅れて触れてしまうのだ。


激情を抑えるように苦悶する浅倉に蓮は言う。


喧嘩の勝者は笑っているもの。

だから舎兄はあの頃のように笑っていればいいのだ、と。