俺はぎこちない表情を作りながらも、健太に目を向けた途端、馬鹿みたいに冷静になる自分がいた。


向こうは冷ややかな目で俺に視線を向けてきてくれる。


随分とまあ不良ぶってくれちゃって……ま、俺達は絶交しあった仲だからな。


そういう素っ気無い態度を取っても仕方がないだろうけど。


取り敢えず、なんでこいつ等が此処にいるんだよ!


『エリア戦争』の傍観者にでもなりに来たか?!


だったら此処で止めないと不味いよな。


斎藤進という不良以外は喧嘩的にも腕っ節的にも俺とどっこいどっこいそうだけど、副頭は強そうだぜマジで!

あの切れ長の目と、冷静を纏っている雰囲気。コワッ!


「あれあれあっれー? なーんでヨウのチームが此処でたむろっているのかなぁ? しかも舎弟はハジメと一緒? 変な組み合わせだね」


ピンク髪の中坊・ホシが鼻に掛かった声で甘ったるく問い掛けてくる。


何故だろうか、その甘ったるさにグーパンチを飛ばしたくなるんですが!

フッ、答えてやる義理なんてな、義理なんて、ないんだからな!


「ちょっとそこまでお買い物中です! パシられ中なんでお気になさらず!」


正直に答えてやる義理はないけど、質問されたら返してやるのが礼儀だよな!


べつに副頭が怖いからじゃないぞ! ち、違うんだぞ!


俺の返答に軽く眉根をつり上げる副頭。

ちょいブルって震えた気がするけど……気のせいか?


「嘘付け」


俺の返答に異議申し立てしてきたのは、付き合いの長い健太。

糸も容易く俺の嘘を見抜き、シニカルな笑みを浮かべてくる。



「ははん。さてはお前等、『エリア戦争』に関わっているな。此処の裏道を使えば、五分足らずで商店街南門まで出られる。

そうだろ、圭太。
土地勘の優れているお前がこんなところで駄弁っているってことは、何かしら一噛みしているんだろう?」



健太……お前。

馬鹿正直に顔を歪める俺をせせら笑い、健太はビンゴだと笑みを深める。


まるで俺等の中学時代の関係を一切合財なかったことにして接してくるそいつは、友人という顔じゃなく、一端の敵チームとして接してくる。


クソッ、お前は割り切っちまったのかよ。

俺等の関係をあの日の絶交宣言で、全部割り切っちまったのかよ。


だったら残念、俺はそう簡単に割り切れないんだよ。


なんでならさ、俺はお前を大事なダチだって思っているから……もう焦って答え出すのもやめたんだ。お前と俺の関係に、焦って答えだすことはもう。


「ケイ。大丈夫かい?」


手の色が無くなるまでハンドルを握り締める俺に、ハジメがそっと声を掛けてくる。

ぶっちゃけるとちっとも大丈夫じゃないさ。こうして向かい合うだけでも、失友した胸が痛む。


でもな、今は大丈夫だって気丈に振舞ってやるさ。


「ハジメ、副頭の実力分かるか?」


ハジメの心配を聞き流して、向こうチームの実力を尋ねる。


健太の実力はある程度把握している。


あいつも元々はジミニャーノ。


俺と実力は変わらない筈……中学時代までのデータだからなんとも言えないけど。



「ホシは分かるんだけど。副頭までは……ヤマトが高校に進学して仲間にした男だろうね。雰囲気的には冷静沈着で、分析力にはとても長けていそうだ。
なにより向こうの副頭をしている腕前なんだしね。油断はならないよ」




ご尤もな意見に頷き、俺はどうやってこの修羅場を切り抜けようか思案を巡らせる。


ヤーんだぜ、副頭にフルボッコされるなんて。

ぜってぇヤダかんな! 日賀野大和で十分、俺は堪能したんだからな!


「フーン、『エリア戦争』にヨウが向こうに関わっているんだ。じゃあー、ヤマトに連絡してやろうっと」


ホシの行動に俺とハジメは以心伝心。


しっかりとハジメが俺の肩に掴まり、俺は思いっ切りペダルを踏んでチャリをかっ飛ばした。


不意打ちともいえる俺等の突然の行動に向こうは怯みを見せるけど、気にするととなく俺は三人の脇をすり抜けた。


同時にハジメがホシの取り出した携帯を引ったくる。


ある意味、犯罪染みた行動を犯す俺等は見事にホシの携帯をゲットして後ろに下がった。