肩を竦めて、後ろに乗っているハジメに流し目。

どことなく悔しそうな面持ちを作っているのは、自分に力があれば喧嘩に加担できたのに……という気持ちの表れだろう。


だったら俺だってそうだ。


筋肉ムキムキボディが欲しいというわけじゃないけど、強い肉体が欲しいよ。


ついでに不良を打ち負かせるような強い気持ちが欲しい。


両方兼ね備わったら、きっと女の子にキャーモテモテ! じゃない、チームのためにできる事が増えるのになぁ。


でも身の程を弁えて、今はこうして待機。

豆粒みたいな糧だろうけど、これだって立派にチームの力にはなっていると思う。

そう思いたい。じゃないと割り切れないし、切ないじゃないか。


「ヨウ達なら大丈夫だよ。お前の作戦も上手くいったみたいだしさ。今頃ワタルさん辺りが豹変して、皆ビビッてるんじゃないかなー」

「ワタルの攻撃はえぐいしね。ドドドドドS攻撃連発」


「そうそう! マジ鬼畜だよな。初めて目の当たりにした時は、俺にまで飛び火してくるんじゃないかと……いやぁ恐ろしかったぁ」


身震いする俺に、

「根は良い奴なんだけどね」

喧嘩になると燃え滾るんだとハジメ。


そりゃ分かるよ。


俺だってゲームをする時はテンションアゲアゲだからな。

それと同じ理屈でワタルさんもテンションアゲアゲになるんだろうけど、アゲアゲに問題ありなんだよな。あの人。

なんで鬼畜方面にアゲアゲなるわけ?
わっかんねぇ……まあ、ワタルさんだから、で、すべての理由が片付くんだけどさ。


それにしても連絡や情報のやり取りを頻繁にするだけというのも、ちょい暇だ。

裏道で見張るだけだから俺的には暇が幸せなんだけどさ。

皆が頑張っている時に暇だと思うのも後ろめたい気がする。


んー、常に連絡待機組に回される弥生やココロもこんな気分なのかなぁ。


あの二人は女の子だし力も弱いから、典型的に連絡・情報役を任せられているけど。


実はやきもきしてたりしているんじゃないかな。


二人のことを思っていた俺だけど、不意打ちがてらにハジメに質問。


「ハジメって弥生のこと好きなんだろ? なんで告白しないんだ?」


今とはまったく関係のない話題にたっぷり間を置いて、「さーね」ハジメはおどけ口調で流す。
 
気持ちを否定するつもりはないらしいく、非難の声は飛んでこなかった。


ただ質問に対しては曖昧に「さあね」「どーしてだろうね」を繰り返す。焦れた俺はハジメの名前を強めに紡ぐ。


誤魔化しなど効かない、その意味合いで相手の名を呼ぶと向こうがあどけなく笑ってきた。



「悲しませたくないからだよ。何かと弱い僕は、いつか“弱さ”のせいで彼女を悲しませると思うから」



意味深な言葉を投げてくるハジメは言う。

特別な関係になればなるほど、悲しみの深さは大きい。

だから安易に関係を作るより、今の関係をキープさせる方が気も楽。


告白なんて行為は一生懸かってもしないと思う、そう補足して――ハジメってさ、自分の気持ちにも弥生の気持ちにも気付いているんじゃね? 気付いていながら敢えて、今の関係をキープしようとしているんじゃ。


気持ちを伝えることくらい、別に悪いことだとは想わないけどな。

確かに特別な関係になればなるほど、その人に対する悲しみの深さは大きいと想うけど。


ハジメの言葉によって俺はふと気付いた。


もしも俺がココロに告白したら、ココロは……その、あれだ、上手くいけば初カノってことになるわけで。

それは喜ばしいんだけど。できれば彼女にしたいんだけど。



でも、俺は近所でも有名過ぎる荒川庸一の舎弟。ココロはその舎弟の彼女になるわけで。



今まで自分の立場を真剣に考えたことなんてなかったけれど、俺は不良達の地位の中じゃわりと上にいるんじゃないか? いや、外貌とか、腕っ節とかそんなのは抜きにして。


だって俺はかの有名な荒川庸一の舎弟な。


ヨウの名前が売れすぎているせいで、何度八つ当たりにも似た喧嘩を売られたか。その度に俺は何度嘆き泣いたことか。


それでも、どうにかこうにかノリで乗り越えてはきたわけで……名前もちょっとずつ売れてきたわけで……いつしか正式にヨウの舎弟になったわけで。


俺の彼女になるということは、それだけの危険も伴ってくる。

随分と名前も売れちまったわけだから……何か危険が及べば彼女にも影響が出る可能性だってある。


つまりはココロを悲しませることになるわけだ。