それは話を遡ること、数十分前。

裏道で待機していた俺とハジメは頻繁に仲間と連絡を取り合っていた。


遠くから聞こえてくる喧(かまびす)しいバイクのホーンで、『エリア戦争』という名の喧嘩がおっ始まったんだと理解した。


本当ならば手伝いたいところだけど、言ったところで足手纏いになることが分かっている俺達は直接参戦することはなく、裏道で見張りを買って出た。


新たに参戦する協定チームがいないか、特に日賀野達の動きがないかどうか、弥生達と連絡を取っていたんだ。


もしものことがあれば舎兄に連絡を。喧嘩で連絡が取れなかったら、直接俺等が現場に乗り込んで仲間内に連絡するという大役を仰せつかっていたんだ。


幾ら喧嘩で名高い荒川チームでも、日賀野達が参戦されちまったら勝算の確率がグンと下がるからな。


見張りと連絡役って楽な役を貰ったことには嬉しいけど、直接エリア戦争に参加はできないから申し訳ないやら複雑な気持ちだ。



でも俺達が行ったところで足手纏いになるのは目に見えている。



寧ろ気を散らせちまうだろ?

ケイとハジメは喧嘩できないけど……大丈夫なのかな? ヤラれていないかな? なんて向こうに心配させて怪我でもさせたら、それこそ申し訳ねぇや!



……だから、悔しいけど俺等は俺等のできることをやるしかない。



ハジメは弥生に連絡して動きを分析中。 

弥生曰く、日賀野達の行動範囲は西地区。


ただ今、優雅に喧嘩中……と、いうことらしい。


どうやら向こうは向こうで喧嘩を楽しんでいらっしゃるようだ。

良かった、十二分に喧嘩を楽しんできてもらいたいぜ!

おりゃあ、日賀野と対面するだけでも冷汗脂汗涙汗なんだしな!


さて俺は直接的な仲間じゃないけど、間接的仲間。


でもって俺の一番の理解者である利二に連絡を取っているところだった。


利二はこの『エリア戦争』のために、わざわざ情報を掻き集めてくれている。

幸いな事に今日の利二はバイトも予定もない。

すこぶる暇な一日らしい。


そのため俺は遠慮なしに連絡を取っている。

利二は外に出て、不良達の動きを見てくれているらしく、電話機向こうから車が通り過ぎたであろう雑音が聞こえてくる。


曰く、近所の不良達の動きが慌しいらしい。

『エリア戦争』が始まった事が、周辺の不良達の耳に飛び込んでるみたいだ。

どのチームが勝つか予想し合っているようで、大半が榊原チームが勝つと予測しているらしい。


前々から優勢に立っていたのは榊原チームだし、奴等が日賀野達と協定を結んだことは噂になっている。勝つのは時間の問題だと話題になっているようだ。


『気を付けろ。野次馬がそっちに向かう可能性も十二分にある。不良達の動きが慌しいからな』

「ああ。分かった。いつも悪いな。また連絡するよ」 

『こっちも連絡するから』


「おう。サンキュ」


利二が電話を切るのを待って俺も携帯を閉じる。

野次馬がこっちにやって来ることも……か、オッソロシイな。

べつに野次馬に来てもらっても構わないけど、喧嘩に加担されるなんてなったら面倒だ。


まずこの裏道を使われたら俺等が戦闘しないといけないわけで。


そう喧嘩できない俺とハジメのコンビで、喧嘩という危険極まりないコマンドを選択しなければいけないわけで。


なるべくは野次馬不良が訪れてくれないことを願うよ。




はぁーあ、溜息をついてハンドルに肘をつく俺に、



「皆どうしているんだろうね」



心配の念を口にするハジメが話を振ってきた。