「ちっ。頭数を増やしても、向こうの協定チームの戦力が一枚上手か」 



現状を冷静に分析した榊原が仕方が無いと乱闘の最中、携帯を取り出す。


なるべく協定を結んでいる“奴等”の手は借りたくなかったが(何故ならば後ほど恩着せがましいことを言って自分達を“駒”にしてくるからだ)、荒川庸一率いるチームの戦力に苦戦を強いられているのも確か。


さすがは荒川チーム、“奴等”と肩を並べているだけある。


荒川率いるチームを伸すには“奴等”を呼ぶしかない。


見返りに気鬱な気持ちを抱きつつ連絡先を呼び出しながら、榊原は向こうの攻撃を避ける。

突拍子もなく手から携帯が飛び上がり宙へと舞った。


後を追う間もなく、舞い上がった携帯機をキャッチするそいつは「残念でした」シニカルに口角をつり上げてくる。


犯人は見事な赤メッシュが入った不良。

荒川チーム頭、荒川庸一本人。

ザマァとばかりに舌を出し、


「モト。受け取れ!」


携帯を向こうに投げる。

チャリで携帯を追うモトは、片手運転で器用にハンドルを操作。


片手でキャッチし、「受け取りました!」返答してくる。


よし、頷いたヨウは鼻で榊原をせせら笑った。



「ヤマトを呼ぼうなんざ野暮だろ。テメェ、随分協定チームを引っ張り出してきてるんだしなぁ? ここは俺達だけで楽しもうぜ」



なんなら俺と手合わせしても良いんだぜ? ヨウが指の関節をパキポキと鳴らす。

しかし連絡手段を絶たれても、榊原は腹立つほど余裕綽々の笑みを浮かべて見せた。


「そりゃあな。けどな、お前等の戦力に対抗できるのは、日賀野大和達だけだしなぁ」


こいつ、何か腹に目論んでやがるな。

警戒を強めるヨウに対し、榊原は片手の親指と人差し指で輪を作り、口に銜えて音を鳴らす。


乱闘の最中、指笛の甲高い音が響き渡り、それに反応した数人の不良達が一斉に同じ方向に駆けた。その中に蓮の姿も見受けられる。


「榊原の合図だ。行くぞテメェ等!」


浅倉との戦闘など念頭にもないようで、「予定通りに行くぞ!」大声で指示。元舎兄に背を向けて駆けてしまう。


「おい戦闘の途中で逃げるは狡いぜ! あんまりだ! 格好がつかねぇ!」


浅倉が非難を上げても、右から左に聞き流しているらしい。

蓮は数人の不良達と共に商店街の外に出て行った。


「あんにゃろう。直接ヤマトを呼ぶつもりか!」


事態にヨウは容易に相手の考えを察してしまう。 


「クソが!」


地団太を踏み、榊原と距離を取って自分もまた携帯を取り出す。

いつでも連絡できるようアドレス帳画面で携帯を閉じていたため、すぐに発信可能。


お返しだとばかりに携帯を奪おうとする榊原の蹴りを擦れ擦れに避けながら、携帯を耳に当てる。


コールの秒数がもどかしい。

早くしてくれ。


携帯に急かした刹那、此方の援護をしてくれるように前に出て榊原の相手を買ってくれる不良がいた。


浅倉和彦だ。