「……蓮か」
立ち止まる浅倉の、切々な呟きですべてを察してしまう。
彼が浅倉の“舎弟だった男”だと。
元舎兄に名を呼ばれ彼の能面に些少の変化が見られたが、それもすぐに消えてしまう。
器用に片手で鉄パイプを回すと、背後を狙った輩にそれを向ける。
蓮と呼ばれた不良の背中を狙ったのは現在の舎弟桔平。
「待て桔平!」
浅倉の制する声など届かないようで、
「蓮てめぇっ、なんで榊原の下につきやがった!」
彼は向けられた鉄パイプを掴み、力ごと引き抜こうとする。
しかし輩は糸も容易く鉄パイプを引くと、前のりになった桔平の腹部に膝を入れた。
迷いのない膝蹴り、うめき声を上げる桔平の胴を薙ぐように更に一蹴りを浴びせ向こうに蹴り飛ばす。
「桔平!」
倒れた舎弟の下に駆け寄ろうとした浅倉の前に蓮が回ってくる。
パイプの先端を腹部に入れようとする蓮に舌を鳴らす浅倉。
すかさず援護をしていたヨウが桔平の下に走り、鳩尾を押さえている不良に手を貸す。
大丈夫か、声を掛けると「くそっ」桔平は奥歯を噛み締め
「手加減すらしてくれねぇや。心身共に榊原につきやがって」
悪態をついた。
「あんなに和彦さんを慕っていたくせに。会ったら、一発かますって決めていたのに」
「西尾……」
「荒川さんっ、俺はいいから。和彦を。蓮はっ、ただ腕っ節が強いだけじゃない。武術経験者なんだ」
つまるところキヨタと同じように武術を習い事として経験している。
それでは一対一のサシ勝負では不利ではないか!
慌てて浅倉に視線を流す。
そこには無感に鉄パイプを振り下ろし、元舎兄の頭をかち割ろうとする不良の姿が。
その場に桔平を寝かせ、飛び出そうとするものの、
「手ぇ出すな!」
一喝され踏み止まる。
浅倉の心情を察してしまった。
彼は手前で舎兄弟の決着をつけてしまいたいのだ。
自分がもし、ケイと対立することがあったら、きっと手前で決着をつけてしまいたいと思う。
そしてその後は、もう一度“舎兄弟”で本音を言い合いたい。
嗚呼、浅倉も同じなのだ。自分と同じ事を考え、元舎弟の敵意を受け止めている。
だから身を引くことにした。
「最終目的だけは忘れるな! 浅倉!」
情に流されて負けるような真似だけはするな。
今の仲間のことを忘れるなと喝破し、ヨウは自分に襲い掛かってくる不良にセーブすることなく殴り飛ばした。
未だに痛みに身悶えている桔平に刺客がいかないように張り手をかまし、相手の身を持ち上げて向かって不良に投げる。
どうしても力が篭ってしまうのは浅倉に対して、蓮と呼ばれた不良に対して、新旧舎兄弟に対して想うことがあるから。



