まったくもって今更。返事をするまでもない頼みだ。
返事の代わりに背中を叩き、
「行くぞ!」
ヨウはバイクから降りた仲間達に声を掛け、人数なんて関係と声音を張った。
地を蹴って先陣を切る。
遅れてやって来たチャリ組も乗り物に乗ったまま加担。
赤から紫に染まる空の下、迎え撃つ榊原チームともつれ合うような形で火蓋が切って落とされた。
一方は小手を狙い、凶器を蹴り飛ばし、また拾い上げ自分の護身に。
また拳を飛ばして急所を狙い、トドメに蹴りを入れる。
一方はその護身を振り回し、相手を怯ませ、なぎ倒す。
さすがは『エリア戦争』で優位に立っていただけあって、向こうの圧倒的人数もさながら中々の腕っ節ぞろい。
悪戦を強いられそうだと思考を巡らせながら、ヨウは飛び上がって相手の額に頭突きを食らわせる。
着地したと同時に後ろ回し蹴り。張り手を飛ばし、既に一発お見舞いされ、切ってしまった口端を舐めながら、冷静に状況判断。
なにぶん、向こうは凶器という凶器を手にしてくれているため、迂闊に手が出せない。
自分の身を守りつつ、懐に入って攻め込まなければならいのだから苦戦も苦戦だ。
「おっと!」
振り下ろされた鉄パイプを紙一重で避け、すかさず小手を狙い、凶器を払い落とす。素早く拾って、背後から振り下ろしてくる別の凶器を迎え撃つ。
警察沙汰になることはごめんだ。
凶器はなるべく使わず、回収できる分は回収。護身として使えるものは使っていこう。皆もきっと分かっている筈だ。
「ホワチョー!!!!」
なんとも間の抜けたドデカイ雄叫びと共に三人を一変に伸したのは、チームイチ腕っ節のあるキヨタ。
さすがは合気道で全国大会にいっただけある。
動きも力も判断力も桁が違う。
向こうの凶器を物ともせず、懐に入って裏拳。
背が低い分、羽交い絞めを食らうことも多いようだが、見事な運動神経で相手を前に投げ飛ばしている。
「やるな。キヨタ」
相手に足払いを仕掛けた後、ヨウは近くにいるキヨタに声を掛ける。
見た目は地味少年のちびっ子中坊だが、中身は凄腕の彼はニッと満面の笑顔を浮かべ、
「数減らしは任しといて下さいっス」
背後から振り下ろされた鉄パイプを両手で受け止めると、それを力任せに引っこ抜き、先端で鳩尾を突いた。
「俺っちは地元で名高いヨウさんのチームメート。ナンバーワンのチームに属しているんっスから、それなりの働きはしたいんっス、よ!」
大柄の不良の顎を手の平で下から上に突き、シニカルに綻ぶ。
「このナリをしているだけで皆油断をして、俺っちを真っ先に潰そうとしてくるっス。ッハ、舐められたものっスよ。
俺っちを誰だと思っているんっスか。かの有名な荒川の舎弟、田山圭太の弟分っスよ!」
兄分に見合う男になるためにも、負けるわけにはいかないのだとキヨタは口角をつり上げ、顎を擦っている相手の股間を容赦なく蹴り上げる。
少しならずヨウは引きつり笑いを浮かべてしまう。
笑顔でなんとも卑劣でえぐい攻撃を。
同性でありながら、男の泣き弁慶とも言える急所を躊躇なく蹴り上げるなんてとんだ悪魔だ。
しみじみに思うヨウだが、直後目前に刺客が現れ、容赦なく急所攻撃。
チームメートがチームメートならば、頭も頭である。



