「――きたな。荒川」
「ああ。成功してくれたな」
北門出入り口で待機していた本隊に合図が届く。
作戦は成功したという喜びの合図、同時に本番だという緊張の合図。
両方の意味合いを持つ合図を耳にした浅倉とヨウは、各々チームメートに行くぞと声音を張って号令。
バイクのエンジンがけたたましく唸り声を上げ、回るモーター音が周辺に響く。
次の瞬間、静寂を裂くように一斉にバイクが走り出した。
宙を切って風を生み出すバイクはスピードを上げるかわりに、絶え間なく排気ガスを吐き出して空気を汚している。
すっかり錆びれた商店街の周辺には息を潜めるように住宅街が建っているが、『廃墟の住処』が広範囲に渡って土地を取っている。
それが余計騒音の苦情を警察や役所に届けられそうだが、正直通報など余計な事を考えている暇などないのだ。
「シズ。鳴らせ」
向こうに本隊が動き出したことを知らせる。
ヨウの指示に運転しているシズはバイクのホーンを鳴らす。
すると仲間内でバイクのホーンがこだまのように次々に鳴り響き、音に音が上塗り。重ね塗り。
分散している音音音、音は一つの合図音と化した。
加速するバイクたちは直ぐに現場目前まで辿り着き、作戦開始。
シンプルすぎるその作戦は、合戦している両チームの間に割って入るように強行突破するというもの。
「あれはっ、荒川だ! 浅倉の野郎、あの荒川と協定を結びやがった!」
ホーンやエンジン音によって自分達の姿に気付いてくれた両チームは急いで道の両端へと避難してくれる。
おかげで人を轢くこともなく(轢いたら大問題だ!)、悠々スムーズに道を走ることができた。
ついでに浅倉チームが地元では名高い不良の荒川庸一と手を結んだことを察したようで、あからさまに顔色が変わる。
「ずいぶんと有名だな。その人気に嫉妬しちまうぜ」
笑声を零す浅倉に、
「ファンが多くて困るぜ」
おどけ口調で返した。
「だがテメェのおかげで志気が揺らいでいるもの確か。イケメンの知名度には感謝だぜ」
バイクに跨っている向こうのリーダーを一瞥。鼻で笑い、口角を緩める。
「ッハ、嫌味にしか聞こえねぇよ浅倉。それに雑魚には興味ねぇだろうが。俺等が食らうのは榊原チームだ」
ヨウ達は合戦を素通りして無事に仲間達と合流、予定していた人数で南門へと向かう。
途中チャリに乗っている組は助言を守り、脇道に入ると別の道で南門を目指した。
此処までは作戦によって何事も無く終えているが……問題は此処からだ。
ヨウは脇道以外のバイクでも通れそうな横道に目を配る。
早速お出でなすったようだ。
向こうから見覚えのない面子がバイクに跨っている。
ご丁寧なことに、運転役以外は何かしら武器らしき金属バットやら鉄パイプやら果物ナイフやら。
「また殺し合い……んにゃ死闘ご希望かよ。武器とか反則だろうが」
思わず舌を鳴らしてしまう。
最近の若者は喧嘩を何だと思っているのだろうか(自分も若人という類ではあるが)。
タイマンを張ってこその喧嘩。
拳を使っての喧嘩だろうに、凶器を持ち出してくるとは……事を警察沙汰にさせたいのだろうか?
それとも脅し程度に持ち出してきたのか?
どちらにせよ、この喧嘩状況は良い傾向ではない。



