【商店街(北)―廃墟の住処―】
「やけに静かだな。榊原達が動き出しているなんざ……嘘みてぇに静かで不気味だ」
浅倉率いるチームと商店街北門前に辿り着いたヨウは、目前の光景に眉根を寄せているところだった。
そろそろ青から赤に染まり始める刻の空の下、満開一杯に広がる景色は店じまいだと教えてくれるシャッターばかり。
入り口に立つだけで既に殺風景だと思える商店街、奥に続く道は淀んだ空気を取り巻きながらひっそりと息を潜んでいる。
この道をひたすらに真っ直ぐ進めば、南口に辿り着けるだろう。
シズのバイクの後ろに跨っているヨウはブレザーから携帯を取り出し、迷うことなくアドレス帳から別行動をしている舎弟の電話番号を呼び出す。
コールが掛かって間もなく、
『こちらケイ。どうぞ』
携帯機から舎弟の声が聞こえた。
「動きは?」
主語もなしに用件のみ尋ねるヨウだが、向こうは内容を把握しているため、間髪容れず返答してくる。
『裏道に人は見当たらないよ。不気味なくらい静かだ。あ、ヨウ。再三言うけど、北から南口に続く大きな一本道は用心しとけよ。いくつか横道が存在するから……不意打ちを食らいかねない』
「ああ。分かった。肝に銘じておく」
舎弟は現在、ハジメと共に大通りに繋がる裏道入り口前にいる。
向こうが援軍を呼んでいるか、また大通りに出入りがあるか動きを見てもらうためだ。今のところ動きはないようだ。
いや、それとも向こうの準備が整ってしまったのだろうか。
こちらも不気味なほど静かだと、ケイは簡略的に報告してくれる。
『って、ちょちょちょ!』
ケイの焦り声と、
『うわっと!』
微かにハジメの悲鳴交じりの声音が聞こえてきた。
やや焦って名を呼ぶと、たっぷり間を置いた後、
『驚かせてごめん』
ケイは引き攣ったような声を出した。
『今さ、急いで大通りに逃げたんだけど……また向こうに数人不良が追加された。日賀野じゃないけど、バイクで南門に向かっているところからして榊原側っぽい。こりゃあスピード勝負で蹴りが着くか、下手すりゃおあいこになりそうだ』
「チッ。なるほどな。向こうの頭は生粋の策士……ってことか。考えてやがる」
『というよりも癖があり過ぎるんだよ。今報告したとおり、向こうもどうやら乗り物を持参しているっぽい。
あ、なにハジメ? ……分かった。
ヨウ、バイクは突破口を作るための道作りに、幾分方向転換が利くチャリは脇道を上手く使って南門に攻めて欲しいってハジメが』
「脇道? けど、向こうの不意打ちを食らいかねないんじゃねえか?」
『何度か説明したと思うけど、商店街南門に続く脇道の幾つかはチャリしか通れない。
それだけ細い道が存在するんだ。目にすれば一発で分かると思う。スピードの出るバイクじゃ到底無理だ。
各々一本道は一本道だけど曲がりくねっているし……機転の利きやすいチャリだからこそ通れる道なんだ。チャリを使ってこそ攻められる戦法ってヤツだな。
さすがに向こうはチャリを使って無いみたいだし、ちょい細い道を使ってみるのも手だと思うよ』



