おうおうおう、どーやら田山はアウトオブ眼中らしい。
なんだお前等、人を無視してリアリアの充実した時間を過ごしやがって。
傍にいるだけでごちそーさましたい気分だよ!
ハンドルに肘を付いて頬杖、俺は二人のやり取りを傍観することにした。いや、この場合は傍聴?
とにもかくにも完全に二人の世界に浸っているハジメと弥生を交互に見やり、深い溜息をついた。
蚊帳の外に放り出された田山圭太は空気と化している。無いものして扱われているよ。
ああもう、こいつ等の会話を聞いてるだけで甘ったるい気分になるんだけど。
アツいよな、この二人。
早くデキちまえばいいのに
わざとらしい溜息をついて会話を待つことにする。
二人のバレバレな気持ちを含む会話に気付かぬ振りをしてやり取りが終わるのを待つ。待つ。待つ……結構苦痛だなおい! 余所でやってくれってカンジなんだけど!
「ん?」
俺はふっ、と顔を上げて首を動かす。
少し距離が離れた向こう側に視線を投げ掛けてくれているひとりの女の子。
チーム内で唯一同類の少女は響子さんの傍にいながらも、こっちに眼を向けてくれていた。
俺の視線に気付いた彼女は、ハニカミを作ると小さくちいさく手を振ってきてくれる。
その小さな仕草でさえ胸が熱くなる。
不思議と胸が火照るんだ。
動作一つひとつに炎系魔法でも掛けられているみたいに彼女の動きだけで、かち合う視線だけで、綻ばれるだけで胸が熱を帯びる。
冷ますように、俺も小さく手を振り返して柔和に表情を崩す。
すると彼女は口だけ動かし、俺にメッセージを送ってきてくれた。
小さな距離という溝があっても伝わってくる彼女の気持ち。
簡単でありきたりな四つの語、『が ん ば れ』
有り触れた単語だけど、俺にとってかけがえのない糧になる言葉だ。
どうしてかな、彼女が言葉を紡いだくれるだけで俺の胸に大きく響くんだ。馬鹿みたいにさ。
向こうに分かるように頷いて、
「そろそろ行くぞ」
俺はハジメに声を掛けて二人の会話を打ち切らせた。
悪いけど、俺等もそろそろ行動しないと……時間は惜しい。
計画が狂ったら、俺等がヨウや浅倉さんにシバかれる。
俺は弥生に気を付けてと言葉を掛け、向こうも俺に掛けてくれ、挨拶を交わしてペダルを踏む。
発進するチャリ、風を少しずつ頬で感じつつ、俺は最後にもう一度だけ彼女に視線を向けた。
向こうにいてもまるで見送りをしてくれるように瞳はこっちを捉えていた。だから俺は相手にできる限りの笑顔を向けた。
そっちも頑張れ、怪我だけはしないように。その意味合いをたっぷりと籠めて。



