傍若無人に腕っ節を使うんじゃなく、一端のチームの頭として、その力を有効且つフルに発揮しようと努めている。
もともとリーダー気質が備わっていたヨウだ。
しっかりと立場を自覚すれば、その力はグングン右肩上がりに伸びていく。今のヨウはチームの顔そのものだった。
「浅倉。テメェにすべてが掛かってるからな」
ヨウは浅倉さんの肩に手を置き、榊原を倒すのはお前だと視線を投げる。
浅倉さんはやや迷いのある顔を見せていたけれど、それを振り切ってヨウの手を軽く払うと「行くぞ」全員に強く指示。
雄叫びにも似た返答ともに不良達は行動を開始する。
皆が動き始める中、俺も愛チャリの鍵を解除して跨るとハジメを呼んだ。
これから俺はハジメと一緒に行動するんだ。
喧嘩できない不良&地味っ子コンビなんだぜ!
ははっ、襲われたら最悪だな! 逃げるしか手立てがねぇ!
自慢にもならないけど逃げ足だけはピカイチだ! まっかしとけ!
「うわぁ……ケイのチャリの後ろに乗るのって初めてだな。できるだけ優しく運転して欲しいんだけど」
俺と同行するハジメがおずおずと申し出。
勿論却下に決まっている。
優しい運転イコール、それは穏やかなスピードでほのぼのとサイクリングを楽しみましょうなレベルだぞ。
そんなんじゃな、直ぐに捕まってフルボッコなんだぜ?!
嫌だぜ、フルボッコなんて。
おりゃあ、もう二度と経験したくないね。あんな痛い思い!
「しっかり掴まっといてくれよ」
肩を握り締めとけ。
チャリに同乗する初心者に助言をしてペダルに足を掛ける。
「ハージメ。ケーイ!」
いざ出発しようとする俺等のもとに弥生が駆け寄って来た。
走ることによって生み出される風に、持ち前の染めた長い茶髪を靡かせながら。
立ち止まるや否や弥生は携帯を取り出して、再三再四連絡について確認。
喧嘩のできない俺等はある意味喧嘩の連絡係、少しでも怠ると勝敗に左右されかねない。
お互い十二分に確認した後、弥生は携帯をブレザーのポケットに突っ込むと「無理しないでね」優しい言葉を掛けてくる。
俺達に言ってくれているようで、直接的に気持ちとして伝えたいのは俺の後ろに乗っている奴だろう。彼女の焦点は後ろに定まっている。
「チームのためだからって、無理をしたら一緒だよ。自分にできることをすればいいんだから」
「うん、弥生も……直接現場に行かないとしても襲われないとは限らない。だから、気を付けてくれな」
「馬鹿、私よりもハジメじゃんか。ハジメは時々びっくりするくらい無理をするところがあるし! 無理をして馬鹿をしたら私……ハジメを困らせるよ。泣いて困らせるからね」
「それは困るなぁ……弥生の泣き顔だけは見たくないし」



