青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―




倉庫の外に出た俺達はまだ青々としている空の下、倉庫裏に回って積み重ねられている木材に腰を掛ける。

それまで始終ダンマリだった俺達だけど、木材の軋み音を合図にココロが口を開く。


俺の恋ならきっと叶う。きっと大丈夫だ、と。


根も葉もない言葉だけど、ココロなりに応援してくれるんだと分かった。


どうやら気持ちまでは見抜かれていないみたいだ。

微苦笑を零す俺は、「どーかな」ちょっと弱気に返答。


何故なら俺の片恋相手には別の片恋相手がいる。

恋が成就するかと言われたら、かなり低い確率だと思う。


「俺の好きな奴には他に好きな奴がいるんだ。
どーしても、そいつに勝てそうにないんだよなぁ。向こうの方が二枚も三枚も上手(うわて)だから。俺なんか逆立ちしても勝てそうにないよ」


かぶりが千切れるほどココロは首を横に振った。


「そんなことないですよ。ケイさん」

「いやぁ、相手と俺を比較したら、確実に負けているんだよ。現在進行形でさ」


なーにせ、好敵手は……まさか、まさかの俺の舎兄なんだぜ?

イケメンで不良で喧嘩が強い。

んでもって最近はリーダーシップを惜しみなく発揮してくれている。


仲間思いだし、女の子にモッテーだろ?


勝負するまでもない。

敗北がどっちを指すかと言ったら、やっぱ俺だよな! 敗北は俺のために用意されているものだと思う!


負けるとは分かっているんだ。相手を困らせるってことも分かってはいるんだ。


だけど。


「結局勝ち負けに関わらず相手を見ている俺がいるんだ。気にしない振りをしようとしても、いつの間にか相手のことを考えている。
何気ない仕草に振り回されているんだ。どーしても何かせずにはいられないから。勝てそうになくても、最近は……」


「最近は……?」


一呼吸を置いて肩を竦めた。


「気持ちを伝えようかなと思う俺がいるんだ。何でだろう。今までの俺だったら、きっと行動を起こそうとも思わなかったのに」


でも、今の俺は何もしないで終わりたくないと思っている。往生際がワルイコトに。

ヨウ達と出会ってから、負けず嫌いっつー厄介な面が俺の中で見え隠れしている。


どうしてもこれでおしまいにしたくない。


どうせならスッキリとフラれて、失恋をヨウに慰めてもらって、これからもイイオトモダチでいましょう的に仲良くしていきたい。


こんなことを思う俺は随分と考え方が成長した。

今までだったらムリの一言で終わって、自然と気持ちを消そうとしていたのに。


「恋愛に対しては消極的だったんだけどさ。ちょっとだけ積極になってみようと思ったんだ。好きな子に気持ちを伝えてみたい。
結果が分かっていても、好きだと相手に言いたいんだ。フラれたら舎兄がラーメンを奢って慰めてくれるだろうしさ」


いつもの口調で淡々と片恋相手に自分の胸の内を明かす。

勿論、明かしている相手が俺の好きな人です、とはまだ言えないけど……予行練習程度にこんくらいは告げてもいいよな。

俺の告白に呆気を取られていた彼女が、真っ直ぐ俺を見つめて瞬きをしてくる。


次第に我に返り始めたらしく、


「凄いですね」


ボソボソと蚊の鳴くような声を出した。