「早速これをリーダ達に報告してくる」


一頻り話し合いを終えたハジメは殴り書きした紙切れを片手に行動を移す。


涼さんも彼について行くらしく、肩を並べてリーダー達の下へ向かった。残された俺達は少しばかり休憩だと羽を伸ばすことにする。


だけど弥生はこれから出掛けて来ると俺達に伝え、腰を上げて制服についた砂埃を払った。


彼女曰く、少しばかり情報を収集してくると言う。

少しでも三チームの現状の動きを知っておいて損はないと考えたみたいだ。


そんな弥生に対して、「一人じゃ危ないって」俺も行こうかと言葉を掛ける。


今の事態が事態だ。

一人で行動するにはちょっち危ない。俺自身は喧嘩すらできないけど、チャリで一緒に逃げることくらいならできる。


率先して同行しようか、と提案する俺に、「心配サンクス!」でも大丈夫だと弥生は胸を叩いた。


「たった今、響子にメールを送ったから大丈夫だよ。響子が一緒なら千人力だから。あ、その前に……ハジメ、ちょっとハジメー!」


思い出したように弥生がハジメの下に駆け出す。見事に染まった、長いながい茶髪を靡かせながら。


俺はついつい微苦笑を零してしまった。


本当にハジメが好きなんだな、弥生の奴。

無意識だと思うけれど、ハジメの名前ばかり呼んでいるぞ。


学校でも、たむろ場でも、日常会話でも。


弥生は気付いていないだろうけどさ、日常会話でよくハジメの名前が出るんだ。


「それでハジメがね」


だなんて、まるで彼氏の名前を紡ぐように、意識しているであろう相手の名前を口にしてる。

実はハジメも、弥生の名前を口にすることが多い。


所謂これが相思相愛ってヤツだよな。


お互いに思い合えるのだから、本当に好きなんだろうな。弥生も、ハジメも。


はぁ……なんだろう。この切なくなる気持ち。


向こうの相思相愛状況を羨んでいる俺がいるよ。

いいよねぇ、告白の結果が見えている、互いに片想いをしている方達は。妬み? おうよ、俺だって人間だ。妬みくらいするぜ!


「はぁーあ、切ない」


思わず口に出して気持ちを吐露。

侘しい気持ちになる、これも青春か? だったら俺の青春ってほろ苦いんだけど!


「げ、元気を出して下さい! ……なんて、安易に言っちゃいけないと思いますけど」


ドキリ。

馬鹿みたいに心臓が高鳴った。


チラッと流し目で右隣を見やれば、モジモジと手遊びをしながら人の隣に腰を下ろしているココロの姿が。


い、いつの間に?!

あ……そっか、ココロは弥生の隣に座っていたから、あいつがいなくなった分、ココロが詰めて座ってきたんだな。


阿呆みたいに心臓が鳴っている。鳴ってやまない。


ヨウが何度も『攻めろ』とか『言葉にしないと分からない』とか、背中を一蹴してくるもんだから、真面目に彼女を意識する俺がいる。くっそう、平常心だぞ平常心。



「ありがとう。いやさ、ちょっと感傷に浸っていたみたい」



無難な言葉を選んでココロに笑みを向ける。


たっぷり間を置いて、


「ケイさん……恋をしているんですか?」


度肝を抜く疑問をぶつけてきた。

ドッジボールで剛速球を鳩尾に食らった気分だった。


まさか、ココロからそんな質問をぶつけてくるなんて。


「ま、まっさか」


見え見えの嘘をつく俺の動揺は表に出ていたようだ。

面白おかしそうに一本取ったと彼女は悪戯げに頬を崩し、目じりを和らげた。