ハジメ、不良だけどわりとからかいやすいんだ。
最初こそ不良だから! で、一線を引いていたけど、喧嘩のことで同じ悩み抱いていると分かった。
更に他の面子に比べて比較的におとなしめな性格だから遠慮せずに物申す事が出来る。
ハジメも俺に遠慮なく言ってくるんだ。
ちょっとしたからかいはご愛嬌だろ!
「いやさ、二人って前々からイイムードだと思って。リア充だよなぁ。羨ましい」
「煩いな。よく話す程度だよ……それにケイだってリア充みたいだけど?」
にやにやっと笑う俺に、食い下がり様な形で反論しようとしてくるハジメ。
おっと、それ以上のことを言おうとしているな?
そうはいかないぜ。
俺だってこの手のことでは、からかわれる側になったら免疫力ない。
このまま一太刀を浴びせられちまったら完全不利になっちまう。
「やーよーい」
俺は打破策として体育館隅っこでサボっている弥生を呼んだ。
「何?」
友達と和気藹々と駄弁っていた弥生が、俺に呼ばれたことで弾かれたように顔を上げた。
おいでおいでと手招きをすると破顔を浮かべて駆け寄って来る。
「けっ、ケイっ!」
白々しく弥生を呼ぶ俺にガンを飛ばしてくるハジメの目は、お前まじふざけるなオーラが漂っている。
だがしかし、そんな怒りなど知らん!
今の俺はチクリ魔だぜべいべ!
「なあにケイ?」
ニコニコと笑顔を零してくる弥生に、俺はさも困ったような顔で「ハジメの奴。ありえないんだぜ」早々にチクリを開始。
「弥生。ハジメを叱りつけてくれよ。俺達があんなにも熱弁したのに、こいつったらまだチームを抜けるうんぬんで悩んでいるんだ」
サッと弥生の表情が変わる。
ぎこちなくハジメが視線を逸らす中、
「俺達の友情が通じないんだぜ?」
俺は嘆きながら肩をすくめた。
すると彼女は相手に有無言わせずズンズンと狼狽している不良の前に立つ。
「ハジメの馬鹿!」
目と鼻の先で怒声を上げられ、ハジメは目を白黒にさせた。
石像のように硬直する不良相手に怒られたい? あっそう、そんなにも怒られたいんだ。
満面の笑顔、でも目がちっとも笑っていない弥生がじりじりと距離を詰め寄る。あまりの剣幕にハジメは逃げ腰気味である。
おい不良、そのへっぴり腰はなんだい?
思いっきりヘタレモードだぜ!
そんなヘタレのことハジメは矢継ぎ早に弁解を述べ始める。
「えっとこれは、ケイの陰謀で!」
おやおや人聞きが悪いじゃあーりませんか。ハジメ。
「何が陰謀だよハジメさん。
俺はお前のことを『エリア戦争はハジメの頭脳がフルに活かさせるよな』って褒めたよな? なのにお前ときたら『僕の力なんて高が知れてるよ』とか言ってさ。
挙句の果てに『もうダメだ。ごめんケイ』なんて俺に詫びを」
「最後に捏造が入っているから! 僕はそんなこと一言も「高が知れてるって言ってたのは?」ああーっと……前者は言ったよーな違ったよーなー、いやでもっ、イタッ、弥生! イタイって!」
俺の手から素早くバスケットボールを奪い取った弥生は、
「天誅!」
ハジメに容赦なくぶつけてギャンギャン文句垂れる。
「ハジメのばかぁあああ! その卑屈根性叩き直してやるんだから! あ、待ちなさいよ! 馬鹿っ、ばかー!」
弥生から逃げるハジメは俺の肩を拳で叩き、
「覚えておけよ!!」
この借りは絶対に返すと悪態を吐き捨てた。
「待ちなさいって!」
ボールを片手に走る弥生は、ハジメに狙いを定めながらあーだこーだと悪口(あっこう)をついていた。
授業中にも関わらず、体育館の隅で青春鬼ごっこの始まりだ。
「どーしてそう卑屈になるのハジメって! 自分に自信持ちなさいよ! 私を助けてくれたじゃんか! いつも助けてくれるじゃんかー!」
「そ、それとこれとは……喧嘩と弥生はチガッ……、イッタッ! 弥生、頭部狙いはナシ! ナシだから!」
あらあら、まあまあ、微笑ましいことですこと。
言葉の節々にノロケが入っちゃっているような気がするし……なんだよ、付き合っちまえってんだリア充め!
お前等なんかな、付き合っちまったらなぁ、スッゲェお似合いだと思うんだぜ畜生! 羨ましいよバーカ!
完全に蚊帳の外に放り出された俺は、壁際に腰を下ろし、立てた膝に肘を置いて傍観者になる。
何度も不良にボールをぶつけてはそれを拾い上げる弥生、逃げ惑うハジメ、ほんと良いコンビだよな。
お互いに恋心に気付いているのか、やや意識をした鬼ごっこをしている。
卑屈になりやすいインテリ不良には弥生みたいなムードメーカーが必要なんだろうな。
弥生はいつだって仲間内の鬱々とした空気を散らしてくれる雰囲気作りの名人だから。



