「意識しているくせに」



なのに、お前がそうやって俺の心を見透かそうとする。厄介な不良だ。

銜えていたアイスの棒の先端を噛み締め、

「意識はしているよ」

結局、白状せざるを得なくなる。

俺って下手に隠し事はできないタチみたいだ。


「なら」

「ヨウ」


告白してしまえと言わんばかりの面持ちを作っている舎兄に淡く笑いを送る。


かぶりを振って、「困らせるだけだよ」自分の抱く感情を根っこから否定した。


「言っただろう? ココロには別に好きな人がいるって」


するとヨウがあきれ返った。


「お前って超絶めんどくせぇ」


悪態をついてくる舎兄の心は見えてこないけれど、物言いたげな顔を浮かべているのは確かだ。

八つ当たりをするように肩を叩き、肘で脇腹を小突いてくる。


「攻めてみろって。振り向くかもしれねぇぞ?」

「ココロの好きな奴と俺じゃあ、勝負が見え見え。絶対に勝てねぇよ」


あっちはイケメンプラス、超仲間想いでチームリーダーだぞ。

ちょい周りが見えなくなるのが短所だけど、イイトコ尽くし。


俺じゃあ勝てねぇって絶対に。


心中で毒づく俺に、

「言葉にしてみねぇと分からないこともある」

恋愛の先輩であり、ある意味俺の好敵手であるヨウはそう言ってアドバイスしてくる。


「言葉ってのは大事だと思う。俺と帆奈美は言葉足らずで終わったんだ。あの頃に戻れたら、伝えたい言葉がたくさんある」

「……ヨウ、もしかして帆奈美さんのこと」


初めて聞くヨウ自身の恋愛話。

瞠目する俺に対し、ヨウは苦笑いを浮かべてまた場所を移動。俺の背中に寄り掛かってきた。


「あいつとはセフレで、今じゃヤマトのセフレになっている帆奈美のことを俺は多分、誰より好きだった。

傍にいて一番居心地の良かったオンナで、抱いたことがある女も最初で最後、帆奈美だけだった。

だから正直ヤマトのセフレになったって聞いた時は、ちょいショックを受けた俺がいた……いっちゃん嫌いなオンナでもあるんだけどな、帆奈美は」


ヨウが苦い顔を作る。


「でも、たった今、好きって」


「好きだけど嫌いなんだよ。敵対しているからかもしんねぇ。

あいつと顔を合わせれば嫌悪感が胸を占めるし、でもあいつのことを思い出すと好意が胸を占める。メンドーだけどどっちの感情にも染まる。

思い返せば、帆奈美にちゃんと言葉にしてやれなかったなぁ、気持ち伝えたことあったかなぁって後悔もある。

ケイ、テメェは俺と違ってまだ言葉にできるチャンスがあんだぞ。

どんな結果が待っていようと気持ちを伝えてみりゃいいじゃねえか。
そのチャンスがあるだけでも俺は羨ましいぜ。

俺にはもう、そんなチャンスさえ巡ってこねぇんだから」


玉砕したら慰めてやるって。

イケメンくんの恋話と励ましに、静聴していた俺は黙ったまま後ろに凭れ掛かった。

向こうには舎兄の背中があるから、それに寄り掛かる形になる。気持ちを伝える、か。


でも、もしも俺がココロに気持ちを伝えたら、あいつ困らないか? ココロ、ヨウのことが、ヨウのことが……………。


ははっ、情けないことに悔しい俺がいるのも確か。

ヨウに嫉妬しているのも確か。

何もしないで尻込みしている自分に呆れているのも確か。


気持ちくらい伝えればいいじゃん、そう心中の俺が叱咤している。


今までの俺だったら思わなかった気持ち。

好きな奴ができても、意識はしていても、結局は何もしないで終わる。



それが今までの“俺”だったのに。



ヨウが俺を舎弟にしてくれたおかげさまで、今までになかった俺が芽生えている。

彼女に対する気持ちがちょいと変わり始めているじゃんかよ。


くっそう全部ヨウのせいだぞ、バーカ。失恋が目に見えているのに、超無謀なことを考える俺がいるじゃんかよ……失友の次は失恋かよ、おい。


「ヨウ、ダメだったら俺に慰めのラーメンを奢ってくれよ。そのうち頑張ってみるからさ」

「おいおい、そのうちって何だよ。でも、いいぜ、そんくらい何だってしてやる。舎弟を慰めるのも舎兄の役目だろうしな」 

「アニキィ惚れるー」


「俺に惚れる前に、まずは行動してくれよ。ブラザー」


でも、ま、幾分、舎兄の励ましが効いたみたいだ。

ちょっとだけ考えてみるかな。『エリア戦争』が終わったら考えてみるかなぁ、告白ってヤツ。


ンー、まだ尻込みする俺がいるけど……取り敢えず……今は『エリア戦争』だ。


俺は自分で選んだ舎兄と、そのチームメート、そして浅倉さん達と共に『エリア戦争』に挑む。

これが今の俺の現実なんだから、未来の俺のために一丁男を見せないとな。


『エリア戦争』が本格化する数日前の俺の心境だった。



⇒#09