「おりゃあ、お前のリーダーシップを見守って素直にスゲェと思ったよ。
個々人の能力を理解して、あんなにもチームを纏めることができるなんて……さすがだと思った。判断もさながら、皆の意見を取り入れるその姿も天晴れアッパレ」



「俺個人の力だけじゃねえ。周囲の力あってこそだ」



「手前の身の程度を知っている。
それを卑下悲観することなく、受け入れることでお前のリーダーシップはより磨かれている。そんな気がする。

荒川と俺は同じ立場に立っているが、決定的に違うところがある。

それは仲間に自分を認めさせる力の差だ。
お前は俺よりも確かに、その力がデケェ。きっとお前にはそれだけの魅力があるんだろうな。惹かれるものがあるっつーの?

例えば、お前の下を仲間内の誰かが離れていこうかどうか迷いを見せる。

その時、離れるか・留まるか、思い悩んで悩んでなやんで、ふと思い出す。お前さんの魅力を。


俺にはそれが欠けていたから、舎弟を含む仲間内の半分以上が去って行ったけれど、お前さんの場合は決定的な魅力が発揮されて仲間を引き止めるんだ。


お前さんの外貌がイケている、そんな高が知れた魅力じゃない。


内面的な魅力がお前さんの中には秘めてあって、いざって時に魅力が大きく輝くから仲間はお前を慕う、リーダーって認めているんだな。

それだけお前の仲間意識への姿勢が強かったのかもしれないな。


噂には聞いているぜ、荒川庸一は喧嘩に対して一点の曇りも容赦もねぇが、その一方でスゲェ仲間思い、仲間のために奔走するってさ。


極悪非道舎兄弟ってのも噂には聞いてたんだけど、そりゃ間違いのようだ。


ま、俺も悲観バッカしてらんねぇや。離れて行った仲間に嘆くんじゃなく、残ってくれた仲間のために喜んで一肌も二肌も脱ごうと思う。

リーダーってのはそういうもんだ。

チームを纏めるだけがリーダーじゃねえ。仲間を守れねぇリーダーはただの能無し。おりゃあ、リーダーをそういう目で見ている」


「仲間を……か。そうだな、守れねぇリーダーなんざ、ただの肩書きリーダーだろうな……浅倉、俺は最近よくこう思うんだ。
たった一人でも俺について来てくれる奴がいる限り、俺は俺の役割を真っ当しよう……ってな」


「かぁあー。イケメンくんが言うと絵になるなぁ。俺が言っても絵どころか下書きにすらなんねぇや」


おどけ口調で笑う浅倉は助言してきた。自分のようになるな、と。


末路に待っているものはきっと後悔と自責の念の大河、それに溺死しそうな苦しみを味わうと彼は告げてくる。


真摯に受け止め、

「気を付ける」

一笑を返して見せるヨウだったが、心中は穏やかでなかった。


もしもの未来が脳裏に過ぎっては消えていく。

嗚呼、もしもあの時、舎弟が自分を選ばずヤマトを選んだ未来があったら……自分達はどんな関係になっていたのだろう。


舎弟は友達を人質に取られ、こっちの舎弟になれと脅された。


要求を呑んで大人しく向こうの舎弟に成り下がっていたら……事情を知らない自分は理不尽に憤りを噛み締めたり、恨みを抱いていたりしたかもしれない。


そして事情を知り、後悔という辛酸を味わっていたに違いない。

結局、舎弟のケイは友達を逃がし、相手にフルボッコされることで自分と友達の仲を守った。

自分を裏切れないからと、畏怖の念を抱きながらも果敢にヤマトと対立したのだ。


そのことで彼はヤマトに対して極端に苦手意識、トラウマを抱いてしまったようだが。



(あの時、もしもケイが向こうを選んでたら俺等……フツーに対立していたんだろうな)



少しならず舎弟が離れて行ったことに嘆き、程なくして自分は新しい舎弟を作っていたかもしれない。

容易に想像できる別の未来にヨウは苦笑してしまう。

結論から言ってもしもはやっぱり“もしも”、ただの仮想なのだ。

分かってはいても想像せずにいられない。別の未来を。




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