同時刻―――。



「べつに桔平との関係に不満を抱いてるわけじゃない。寧ろ、桔平には感謝している。こんな俺を慕って支えようとしてくれてるんだからな。
けど舎兄として俺が不甲斐なかったからぁ、ンなことになっちまったんじゃないかって常々後悔している。おりゃあ、お前さん方のようになりたかったよ」


「浅倉……」


ヨウは浅倉と倉庫隅の壁に背を預け、他愛もない談笑をしている真っ最中だった。

一区切りついた話し合いから、どういう流れで舎兄弟の話になったのか。


その過程は憶えていないが(向こうから話を切り出してきたのは確かだ)、たった今ヨウは浅倉の心情に耳を傾けている。聴くに堪えない話だった。


仲の良かった舎弟が離れて行ってしまった。


しかも敵対している、だなんて。


「舎弟には苦労掛けてばっかりだった」


苦々しく笑う浅倉は、精神安定剤代わりの煙草をゆっくり吸い、同じペースで紫煙を吐き出す。

吐き出された真っ白な紫煙は空気に溶け消えていった。


「思い返せば、俺の思いつき行動に何度、手を焼かせたか。両手足の指じゃ足んねぇ」


手を焼かせる度に仕方が無さそうにへらへら笑ってうたけど、内心じゃ憤ってかもしれねぇな。


昔話にもならない、ちょっとした思い出に花咲かせる浅倉。


変わらぬ動作で煙草を吸っては紫煙を吐き出す。


変わっていくのは吸っている煙草の長さだけ。

次第に短くなっていく煙草の先端部を見つめていたヨウだが、ふっと視線を逸らし天井を仰いだ。


等間隔に並んでいる古い照明灯たちが無愛想に自分を見下ろしている。内、一つは今にも消えてしまいそうだ。発光が弱々しい。


「他人事に思えねぇ。俺等もそうなっていたのかもしれねぇしな」


ポツリ、ポツリ、と零すその言葉にすかさず反論が返ってきた。


「何を言っているんだぁ? 荒川、お前はしっかりと舎兄としてやってきてンじゃねえか。あの地味くんと三ヶ月以上も続いているんだろ? 嫌味かよ畜生」


肩を小突いてくる浅倉に違うと否定。

けれど遮るように向こうチームのリーダーは言うのだ。

今の現実がすべての結果なのだと。


彼は言う。

そっちにはそっちの苦労があっただろう。水面下で対立したかもしれない。


しかし、今こうして信頼し合っているではないか。


タイプの違う人種同士が噂立つほど名を挙げている。

傍目から見ても羨望を抱く絆の強さ。


それは舎兄であるヨウの実力であり、大した器なのだと浅倉は語り部に立つ。