「家。何処付近?」

「あ゛?」

「だからなんで濁点を……家近くまで送るって言っているんだよ。どうせ、ずっと乗っとくつもりだろうしさ」

「バーカ。こんな時間に家に帰るワケねぇだろ。これからゲーセンに行くつもりだ」

「ゲーセン?! 駅まで行かなきゃイケないんだぞ⁈ ッ、はぁー……分かったよ。ゲーセンな」

「お前も来るか? ダチに紹介してやるぜ」

じょ、冗談じゃない! お前のダチってみんな不良だろ! 今日、ワタルさんと知り合っただけでクタクタだよ!

俺は小さい小さい凡人という名の勇気を振り絞ってヨウに言う。

「今度な。今日はパース」

「チッ、ツレねぇな。今度はちゃんと誘いにノれよ」


「了解でーす」


やった、やったよ俺! お断りすることが出来たよ!

平凡でも不良に立ち向かえるみたいだよ! ほんのちょっぴっとだけどな!

内心飛び跳ねて喜んでいる俺に対して、ヨウが詰まらなさそうに舌打ちをしていた。


「お前、芸人体質だからいたら絶対オモシレェのに」「それって褒めているのか?」「一応な」「貶しているだろ」「かもな」「いや、貶しているって」「じゃあ貶しているな」


こいつ。舎弟のことといい、今のことといい、地味くんの俺をからかって楽しんでいるだろ。


俺は小さく息をつくと、力強くペダルを漕ぎ始めた。

風が真っ向から吹いて気持ちイイ。後ろに乗っているヨウが「涼しいな」って声を上げている。

「おい、ケイ」

「なに?」

「もっと飛ばせよ」


「チャリ漕ぐのは俺なんだけど……仕方ねぇな。振り落とされるなよ」

「俺が振り落とされると思うか?」


きっと今、自信満々で嫌な笑みを浮かべているんだろうな。


俺はさっきよりもペダル強く踏んでチャリを漕ぐ。

真っ向から吹く風も強くなって、心地良い風が俺達を通り抜けていく。


風の気持ち良さに少し目を細めて、視界を狭めた俺はこれから先の近未来を思い描いてみる。


けど、この先の未来なんて全く想像できない。

タコ沢の言った厄介事が俺を待っているのだろうか。

それは勘弁だけど、今はそういう先行き不安な未来を想像しても仕方ない。

募る不安を通り抜ける風と一緒に散らし、ヨウを一瞥する。

風で靡いている金髪とそれに紛れる赤毛が目に飛び込んでくる。

髪、染めるべきかなぁ。舐められないように。


「あーあ。俺、近い内に髪染めるかもな」


「だったらピンクに染めちまえ」

「そりゃ勘弁。ヨウがピンクに染めるなら考えるけどな」

「舎兄弟揃ってピンクかよ。キモッ」


確かに舎兄弟揃ってピンク髪ってキモイな。


笑うヨウにつられて俺も笑い声を上げた。


こうやって自然に笑える時は不良のヨウも地味な俺もそんなに大差のない、ただの高校生だって思えるんだよな。


笑い声を風の中に掻き消しながら、俺達は下り坂をチャリでくだって行く。




明日もこいつとこうして時間を過ごすのも、まあ、悪くはないかもしれない。




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