熱弁する桔平と呼ばれた不良。


「そりゃ酷いな」


金髪不良は顔を顰めて、不良のかざかみにも置けないと眉根を寄せている。

黄緑髪の不良もうんうん頷いて同調していた。


勿論、そりゃあくまで噂なわけでして。

実際は普通に地味っこい俺が舎弟、ド派手不良のヨウが舎兄、我がチームリーダーは残念なことに策士ではないという。


ポカーンとして目を点にする俺に対し、ワタルさんは大爆笑。

ヒィヒィ笑声を漏らして、人の背中をバッシバシ叩いてくる。


「あっひゃひゃひゃひゃ! ケイちん、悪くなったねねねねん! あーお腹痛いっ、あっひゃひゃ! 極道舎兄弟だとか! あっひゃひゃっ、極道だってっ、ケイちゃーん。どーするのっ、あっひゃひゃひゃひゃ!」

「わ、笑い過ぎですワタルさん」


人の不幸をなんだと思っているんだいこの人!

涙目になって腹を抱えるワタルさんに、会話を交わしていた不良達が呆けた顔でこちらを見てきた。


察しが良いらしく、


「あ。もしかしてあんたが」


桔平さんが指差してくる。俺はぎこちなく笑みを返した。


「噂の舎兄弟だったり……するんですけど」


指遊びして相手の反応を窺う。


文字通り、不良三人は驚愕した。



「お、お、お前が地元で名を挙げている荒川庸一なのか! なんって地味っこい格好してるんだ!

……こりゃあ喧嘩する相手も油断するわけだな。
地味だし、喧嘩できなさそうだし、見るからにパシリっぽそうだ。

どこをどう見ても完璧な真面目ちゃんだ。さすがは策士、ここまで完璧だと目を瞠るな」



るっせぇ、こりゃカモフラージュじゃなくて素だよ! 大概で失礼なことを言っているぞお前。


畜生、ド派手じゃなくて悪かったな!

どーせ俺は万年地味っ子表向き真面目ちゃん、んでもってイケてない男子高生だー! 地味とモテない歴16年、文句あっか?!


ええい、心中で毒づくことしかできない俺はチキンでもヘタレでもないけれど、不良のことは恐いんで、そこのところは夜露死苦!


(しかもさっき、ワタルさんが俺のことを『ケイ』って呼んだじゃんかよ)


俺は荒川庸一じゃねえって。なんで気付かないの、この不良。


「あの……俺は」


訂正を入れようと口を開いた瞬間、


「此処で会えたのは運が良かったなぁ」


金髪不良は自分は浅倉和彦だと名乗って、俺に微笑した。


「荒川、おりゃあ、ちょいとお前に話があるんだ。あ、喧嘩じゃないから安心しろ。なあに噂は噂。おめぇがどんなにあくどかろうが、そんなの二の次三の次だ」

「ちょ、俺は荒川じゃ……」


しかもあくどいってお兄さん!


「喧嘩するつもりは毛頭ないですけん、カモフラージュせんでもよかですよ。自分は金子 涼(かねこ りょう)です。向こうは西尾 桔平(にしお きっぺい)。どうぞお見知りおきを」


愛想の良い爽やかな笑顔で黄緑髪の不良、金子涼は俺に自己紹介。宜しくと西尾桔平も頭を下げてくる。

俺は勿論、爽やかに挨拶を返して宜しくと握手を求める……わけなかった。


なんでそうやって勘違い起こすんだよ、この不良三人組。


俺は荒川じゃないって。

ヨウじゃないんだって。

イケメンでもないんだって。


嫌味かよ、お前等。寄ってたかって田山いじめか? だったらくそったれだー!


オイオイシクシク心中で毒づき、そして泣きながら、表の俺は荒川じゃないと何度も否定。


だけど向こうはちっとも信じてくれない(噂を鵜呑みにしてるみたいで荒川は地味っ子だと思っているらしい)。


ワタルさんはまーだ人の不幸に対し、腹筋を忙しなく動かしてゲラゲラと笑声を漏らしている。俺の味方になってくれそうにはない。


埒が明かないから俺は携帯を取り出し、三人に少し待ってもらうように告げてお電話。勿論相手は俺の舎兄だ。



「もしもしヨウ。なんかお前にお客さんが来ているんだけど。俺等、そいつ等に絡まれているんだ……うん、うん無事っちゃ無事。
たださ、メンドクサイことになっているから、そっちに連れて来てもいいか?」