浅倉 和彦率いる不良達が俺達の下に現れたのは今から十五分ほど前に遡る。 


その時、俺は倉庫に向かっている最中だった。


いつもだったらヨウをチャリの後ろに乗せてたむろ場に行くんだけど、今日はヨウを先にたむろ場に行かせて、俺は自転車屋に寄り道してきたんだ。


理由はしごく簡単なもので、ちょっとタイヤの空気がやばくなっていたから。


それどころかタイヤ自体が不調で、整備してもらおうと思ったんだ。


俺にとって自転車は何よりの武器であり、チームの“足”的存在。


自転車に何かあれば“足”は不能になって、喧嘩のできない俺は本当に能無しになっちまう! いざとなった時に不良から逃げられねぇし。


もうフルボッコは勘弁なんだ。

フルボッコお試しキャンペーンは日賀野だけで十分だよ。


だから、しっかりとタイヤに空気を入れてもらい、タイヤの調子も見てもらった。

自転車のタイヤ自体はなんともなかったから、空気だけ入れてもらって皆のいるたむろ場に向かった。


「快調かいちょう」


タイヤの具合にご満悦しながら、チャリを漕いでいたら途中でワタルさんに会った。

てっきりヨウ達と一緒にたむろ場に向かったと思っていたんだけど、ワタルさん曰く職員室でちょっとばかし絞られてきたらしい。


そりゃ災難だ、心中で同情しつつ俺はワタルさんをチャリの後ろに乗せて(だって乗せろと煩いから)、ヨウ達の待つたむろ場へ。


このまま何事もなーく目的地に行けると思っていた矢先、


「ちょっと待て」


俺の行く手に不良が立ちふさがった。


まんま飛び出してきたもんだから、危うく相手を轢きそうになったよ!



慌ててブレーキを掛けた俺は目を白黒させて飛び出してきた相手を観察する。



見慣れない金髪不良が通せん坊していた。


遅れて黄緑、赤と黄のメッシュの不良が目前に現れる。

相も変わらず不良さんってのは髪の色をカラフルにしたがる! 金、黄緑、赤と黄のメッシュ……どんだけー?!



「おやん? この空気は喧嘩する雰囲気かなぁ」



同乗者が生き生きとした声を出す。

それだけは切にやめて欲しい。

ワタルさんはともかく、俺の手腕なんて高が知れている。


最大限まで警戒心を募らせていると、


「道を尋ねたいんだが」


予想外な言葉を掛けられた。


「お前等、荒川チームのたむろ場を知らないかぁ? おりゃあ、荒川チームに用事があるけんそこに行きたいんだけど」


やけに砕けた物の口調で俺達に話し掛けてくる気さくな金髪不良に、思わず俺はワタルさんと顔を見合わせた。


だって荒川チームは俺等のことを指すしな。用事ってやっぱ喧嘩か?


「その顔じゃ知らんか。んー確かここら辺って聞いたんだけどなぁ。桔平(きっぺい)、本当にここらなのか?」


桔平と呼ばれた赤と黄のメッシュ不良は間違いないと頷く。


あっれ?

俺はともかくワタルさんの顔も知らないのか、こいつ等。


ワタルさんはヨウとつるんでいる代表不良として有名だ。

顔も広いんだけど。ワタルさんの顔を知らないってのも珍しい。


「噂によると荒川は地味っこい奴と舎兄弟を結んでいるらしいです。そしてこれも噂なんですけど、実は地味っこい奴が荒川で、ド派手不良が舎弟だとか!」


……んんん?

地味っこいのがヨウで、ド派手が俺?


「荒川は策士らしく、ついで喧嘩ができるそうなのです。

そしてすっごく狡賢いらしいので、自分の腕っ節の強さを地味というカモフラージュに包んで、いざ喧嘩の時に油断している相手を伸してしまうそうです。

卑怯な舎兄弟として不良達からは恐れられているとか!
巷では“極道舎兄弟”だと呼ばれているとか! 義理も人情もないとか! ……恐いですね」