俺がヨウを乗せて向かった場所は、高架線下。


そう、そこは俺と健太が絶交宣言を交わした場所だ。


何となく気持ちに整理を付けたくていつかこの場所を訪れようと決めていたんだけど、こんなにも早く訪れるなんて思わなかった。


行きたいと言い出したのは俺なんだけどさ。


此処だったら見晴らしもいいし、車のラッシュを除けば静かな場所だ。

川原だったら地べたに座っても違和感はない。


俺はヨウと此処でコンビニ弁を食いながら駄弁ることにした。


最初は当たり障りも無い日常会話。テレビの話題とか、アーティストのこととか、適当に二人で駄弁る。 


「ケイ、俺、一つテメェに謝らなきゃいけねぇことがあるんだ」


談笑に一区切り付いた頃、ヨウがこんなことを口にしてきた。

「何かあったっけ?」

俺は謝られる憶えがなくて、なんで謝る必要があるのだと聞いた。

ヨウは間髪容れずに答える。


「俺、ケイを疑った。テメェと連絡がつかない間、もしかしたらヤマト達のところに行ったんじゃないかと思ったんだ……寝返ったんじゃ、そう思っちまったんだよ」

「へー。そりゃまたご大層な事を思ったんだな」


俺はふーんと相槌を打った。


それの何処が謝ることなんだ?

俺が日賀野のところ……ん? 俺が日賀野達のところに?


……はいぃい? 俺が日賀野達のところに寝返った?! 向こうには俺のトラウマがいるのに?!


「まじで?!」


素っ頓狂な声を上げて、隣に座っているヨウを凝視した。


「お、俺そんな疑いを掛けられていたのか?!」

「ん……まあ、ちょっとな」 


わぁーお、なんてこったい! 

俺が連絡を入れない間にそんな疑惑が持たれていたなんて!


……ということは仲間内にも疑惑が?


おおいっ、そりゃ大変じゃんか! 俺の身の潔白を証明しないと!

確かに健太とは仲が良かったけど、向こうに寝返るという気持ちは念頭にも無いぞ!


「やっべどうしよう」


慌てる俺に、


「だから謝っているじゃねぇか」


ヨウはもう疑っていないことを告白してくれた。


そうは言っても、仲間内にまだ疑念がしこりとして残っているんじゃ……うん、やっぱり熱に魘されていても携帯はチェックするべきだな。


反省、田山圭太、反省の猛省。


「ごめんな。俺が連絡を入れていなかったから……まさかそれで騒動になった?」


おずおずとヨウの顔色を窺う。

イケメンは力なく笑った。

ふわっと微風が吹いて不良の赤メッシュ部分が揺れる。


「テメェは何も悪くねぇって。疑ったのは俺だ。テメェの弱音を聞いといて、馬鹿にも程があるってほどテメェを疑っちまった。

で、その疑念がちょっとしたハプニングを呼び起こした。

べつに大きな騒動は起きなかったが……ある奴から舎兄に向いてないと言われちまったんだ。そいつはケイが学校を休んでいる間に俺等のたむろ場に来たんだ。


んでもって俺に話があるとやり取りし、そして向こうは静かに怒った。怒りを露にしてきやがった。

俺に堂々と言ってきやがったよ。

『舎兄と見る価値もない』ってな。


俗に言う舎兄問題発生だ。

他の候補者がいるわけじゃねえが、そいつは俺に舎兄なんざ認めねぇってきっぱり言いやがった。

そいつ曰く、今の俺じゃ、舎兄だって名乗る資格もねぇらしい。一刀両断っつーの? ああいうの。

さすがに、あそこまではっきり言われると俺だってヘコむぜ。

ケイが『舎弟らしくねぇ』とよく周りから言われているのは知っていたけど、まさか俺にまで『舎兄失格』なんざ振られるとは思わなかった。

シズやワタル、ハジメ、響子がその場にいたんだけど、全員が全員驚いていた。舎兄失格発言に」



「よ……ヨウに向かって命知らずな」



「ま、疑った俺が悪いんだけどな。五木にあそこまで言われるなんざ……思わなかった」