嗚呼また目から。


これじゃあ、ヨウに八つ当たりをしているのも同じじゃないか。


ほら、あんなにもヨウが困っている。困っているから。


なのに俺はヨウに当っている。

正しいのその一言が欲しくて、不良に答えを求めている。



ヨウは追試の勉強をしなきゃなんねぇのに。

俺に構っている時間なんてないのに……どうして俺はこんなにも弱いんだろう。


誰かに答えを求めるなんて女々しいぞ、俺。



「わからねぇ」



ヨウが返事した。それは俺の求めている答えとは異なった、率直な返事だ。


のろのろ相手と視線を合わせると、


「俺が安易に出していい答えじゃねぇ」


なによりお前等の関係柄を詳しく知らない。だから分からないのだとはっきり告げてくる。

優しいのか、優しくないのか、分からない奴だな、お前。


「だけど、これだけは言える」


ヨウが首に回している腕の力を強くする。

すっかり冷えてしまった夜の風を頬で受け止め、金髪赤メッシュを靡かせる不良は醜い泣きっ面を作っている舎兄に視線を投げて力強く笑った。


「テメェの弱さはいつだって受け止められる。言いたいことは言えよケイ。ダチってそういうもんだろ? 心配じゃなくて迷惑を掛けろ舎弟」


視界が揺れる。


「チームの迷惑を考えて、テメェは自分の本音を出し切ってねぇ。ケイの気遣いは分かる。けどさ、俺は素のテメェがいい。遠慮すんじゃねぇよ、言いたいことは言え。遠慮ばっかりされると、こっちも寂しいんだよ」


弱音ばかり吐く女々しい俺の気持ちを咎めることもなく、寧ろヨウは一線を引こうとする俺の中の線を消しに掛かった。


どうしてそんなにカッコイイことばっか言うんだよ、俺の舎兄は。


イケメンだと言葉もより一層、カッコよく聞こえる。羨ましいな、ほんとに羨ましいな。俺もイケメンに生まれたかったよ。


忙しなく肩を上下に動かし、思い出したかのように落涙が始まる。俺の虚勢は脆くも剥がれ落ちてしまった。



「つらいっ、ヨウ。どうすりゃいいんだっ、おれっ……健太と対立したくない。あいつと絶交したくなかった。あいつを潰すことも、潰されることも怖い。憎まれることが怖いんだ」



本当は絶交なんてしたくなかったんだ。ずっとずっとずーっと健太と友達でいたかったんだ。なんで絶交しちゃったんだろ、俺等。

堰切ったように本音を吐き出す俺に、

「そうだな」

ヨウは言葉一つ一つに丁寧に相槌を打ってくれた。


その優しさが身に沁みて、また俺は目から雫を零す。

夜風に当たりながら、ヨウの優しさを噛み締め、馬鹿みたいに涙を零す俺がいた。




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