ぼんやりとして宙を見つめていると、頭にぽふっと何かが掛けられた。



今度こそ現実に返り、瞬きを繰り返す。

それがタオルだと気付くのに暫し時間を要した。


真っ白な無地のタオルの端をそっと握り、顔を上げる。


同着で鼻の先に缶珈琲を差し出された。

その腕を辿って視線を持ち上げると、


「奢りだ」


眦を和らげる舎兄が肩を竦めてくる。

近場のコンビニでタオルと珈琲を買ってきてくれたのだろう。

タオルの端を握っていた手を前に出すと、そこに置いてくれた。


じんわりと手の平が温かくなる。

ヨウはホット缶珈琲を買ってきてくれたようだ。


「ありがと」


嗄れた声はヨウに届いたようだ。


「ん」軽い返事をして、俺の隣に腰を下ろしてくる。

自分の分の缶珈琲を開け、口元に運ぶ様は本当に絵になる。イケメンは得ばかりだ。


視線を戻し、手中の缶珈琲を見つめる。


折角ヨウが買って来てくれたのに飲む気にならず、ただ両手でコロコロと擂るように転がす。


やがてその行為にも飽きて、力なく後ろに凭れかかった。

金網フェンスの軋む音が耳につく。


見渡せば、停車している車がずらり。此処は私有地の駐車場だ。

泣き崩れた俺を落ち着かせるために、ヨウが此処まで連れて来てくれた。


外灯に照らし出されている車の不気味さはパない。

まるで俺達を侵入者だと言わんばかりに、ライト部分がこっちにガンをつけている。


くしゅっ、一つくしゃみを零す。

夜風に当たっているせいか寒くなってきた。


「ケイ、ちっとでいいから飲んどけ。気も落ち着くし、体も温まるから」


それまで黙って傍にいてくれたヨウから、優しい気遣いを受ける。

カイロ代わりに持っていた缶珈琲に目を落とし、プルタブに指を引っ掛けてそれを開けた。


一口。

ほろ苦い甘味が口腔に広がる。


比例して温かい。ほんとう温かい。安心する温かさに涙腺が疼く。


振り払うように、片膝を抱いてそこに額を乗せた。


胸に広がるのは大きな痛みと喪失感、そして激しい自己嫌悪。他人に見せた弱い自分への情けなさや、泣いてしまった嫌悪感、これからの未来に畏怖する気持ち。


それらが複雑に絡んでいる。

思いをめぐらせているとおさまりかけた痛みが疼き、落涙してしまう。


馬鹿、折角落ち着いてきたのに、何しているんだよ。



「誰も見てねぇよ」



俺のちっぽけなプライドを一掃してくるのはヨウだった。

頭に手を置いてくる舎兄の優しさに、ついしゃくり上げてしまう。


甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるヨウの口から、何が遭ったのかと執拗に問われない。それはヨウの優しさであり、気遣いだ。


もしかしたら弥生達から何かしら聞いているのかもしれない。

真実は分からないけれど、こいつの優しさが俺の真新しい傷を癒してくれるのは確かだ。