一理、偶然にも偶然、三年間同じクラスメートになったことも要因として挙げられると思う。



だから別々の高校に通うと決めた時には、とても少し寂しい気持ちを抱いた。


一度は同じ高校に通うことも視野に入れていたけれど、程ほどにレベルのある普通科を選択した俺に対して健太は工業科のある高校を選択していたんだ。同じ高校には通えそうに無かった。


将来のことを考えての選択肢だとは言え、別々の高校に通うことは気鬱だった。


これ以上にないほど、俺は健太と仲が良かったのだから。

それは健太も同じみたいで「一緒の高校に通いたかったぜ」愚痴を零していた。俺も心底同意する。


「健太がいないのか。寂しくなるな……あーあ、田山田(たやまだ)解散か」

「違うって。山田山(やまださん)だろ。田山より、山田の方が王道だぞ。名前的に」


「あ、ってことは、田山は茨道か? それ、全国の田山さんに喧嘩を売る発言だって」


本当のことじゃないか。

健太は笑声を上げて、自分の名前の方がメジャーだと主張した。


事実、この日本国は田山より山田の方が多いと意気揚々に綻ぶ健太。


言い返せない事実に不貞腐れ顔を作りつつ、


「それでも田山田だからな」


大人気なく主張していた俺。

本当にくだらないことで張り合い、笑い、馬鹿して楽しんでいた。

そんな俺達の間で約束を交わす。高校に進学してもちょくちょく会おうな。なんてことのない内容の約束だった。


別々の高校を選んだけど俺等だけど、いつだって会える距離にいる。会おうと思えば会える。中学みたいに遊ぶ機会は少なくなるけど、俺達の関係はきっと変わらない。


そう信じて約束を交わした。




―――進学しても会おうな。




思い出に浸っていた場面がテレビのチャンネルを換えられたように入れ替わる。



それは和気藹々としていた中学時代から、今生きる高校時代。

人の胸倉を掴んでくるダークブラウン色に髪を染めた不良が、体を震わせて懇願している。


絶交、憎む、圭太を潰すのはおれだ。今までサンキュ。


沢山の言葉を手向けて、人を川に落とした。瞼を閉じれば水音が鮮明に蘇る。

夕陽が射し込む水の中、人肌より冷たい川の水が俺を包んだ。


綺麗とは言いがたい水を飲み、溺れるんじゃないかと恐怖しながら岸に這い上がった。


その時にはもう、健太の姿はそこになく、あいつとの関係に終止符が打たれたことを意味していた。


ひでぇの。
絶交だけでなく、俺を川に突き落とすだなんて。


おかげで体が冷え切ったじゃないか。

しかもこのナリ。
母さんになんて説明すりゃいいんだよ、この制服の始末。責任取れよ、馬鹿。




“お前とは……絶交だ”




健太の言葉がリフレインする。 

絶交……か、まだ夢でも見ている気分だ。



あんだけ仲の良かった奴とあっちゅう間に絶交しちまうなんて。



健太、俺等、本当にこれで良かったのか。


いや、良かったんだよな。

俺はお前にとって敵方リーダーの舎弟。お前は俺にとって敵方のチームメート。


今を捨てられない現実が俺達に過去を捨てさせた。立場的に考えても、これが最善の策だったんだ。


分かっている、分かっているんだ。


なのに認められない俺がいる。

理屈だけじゃこの気持ちに整理がつかない。



ヤな別れ話だよ。



出逢い話は大したこと無いのに、別れ話は激濃厚だぜ。濃厚。


ベタな失恋するよりも、これは堪えるぞ。


失恋じゃなくて失友か? 俺の場合。


んじゃあ失友した場合、どうすりゃこの気持ちに整理がつくんだ。失恋の場合は自棄食いとか何とかするだろうけど。


健太、何にも考えられねぇよ、今は何にも答えが導き出せねぇ。


俺達のしたことが正解だったのかどうかも、判断できなくなっちまった。




⇒#01