――すっかり日が暮れちまった空の下、俺は重い足取りでチャリを押して帰路を歩いていた。
制服がぐしょぐしょのぬちょぬちょだ。水を含んで大層重くなっている。
革靴も最悪。じゅくじゅくになっている。歩く度に嫌な水音が奏でてやんの。
しかも頭のてっぺんから爪先までずぶ濡れ。
その格好で街中を歩いているから、やけに人の目が飛んでくる。見世物じゃないっつーの。好きでこんな格好をしているわけじゃないんだぞ。
他人事に思っては溜息を零してしまう。
もう悪態をつく元気もない。心の中が空っぽだ。胸にポッカリと穴があいちまった。今の俺、廃人寸前。歩くことも疎ましい。
体を引き摺るようにトボトボと歩道を辿っていると、通学鞄から着信音が聞こえた。
無視をして歩く。
一度は止まった着信音が再び声を上げた。
誰だろう、こんな時に。しつこい着信だ。
このまま無視し続けても良かったのだけれど、何となく気分的に乗ったからチャリを押したまま器用に携帯を取り出す。
ディスプレイに表示されている相手を確認することもなく「はい」俺は電話に出る。
機器の向こうからは聞き慣れた声。俺の舎兄だ。
『やっと出やがったなケイ。今どこにいる? 家か?』
どうしてヨウが……考えることも億劫だ。俺は嘘を付くことにした。
「ん、家だよ。なんで? 何かあったか?」
『そりゃこっちの台詞だ。テメェ、途中から様子がおかしかったぞ……何か遭ったんじゃねえか。弥生やキヨタ達がしきりに心配してたぞ』
「なーんもなかったよ。なんで心配されているんだろ?」
へらへらっと笑声を漏らす。
もう笑う以外に感情が出てこない。まるで他の感情を忘れてしまったかのように、笑声が零れる。
これでいいのだと思った。
健太を言ってもチームに迷惑を掛けるだけなのだから。
「別に何もなかったよ」
俺は繰り返しヨウに言った。間を置いて、舎兄が指摘する。
『ケイ、テメェの悪い癖が出てる気ィする。テメェ、俺等に一線引いちゃねえか?』
自分だけで解決しようとしていないか? その問いに俺は足を止めた。
一線。ああ、そうだ俺、ヨウに頼んでたっけ。
俺は仲間との間に一線を引く悪い癖があるから、もしも俺が一線引きそうな時は迷わずを止めてくれ。そうヨウに頼んでたっけ。
今後チームにもっと迷惑を掛けるかもしれないから、余計な心配掛けるかもしれないから、一線引きそうになったら止めてくれるよう……言ったっけ。



