この原因を作ったアズミは、


「仲がいいことで」


空気を悪くするの好きだね、と皮肉を零している……お前のせいでこんな空気になったんだぞ? そこらへん分かっている? アズミさん。


因縁がない組の弥生が席を移動してきた。


「恐いね」


俺にそっと耳打ちしてくる。深々と頷いた。真面目に恐いよ、ヨウ達。


「ケイは、大丈夫?」


ん? 何が? 
目をキョトンとさせる俺に対し、弥生は物言い辛そうに向こうのチームに視線を投げた。つられて向こうのチームに目を向ける。

刹那、目を眇めた。そうだったな、向こうのチームには健太がいたっけ。


「仲が良かったんじゃないの?」


弥生も向こうと直接的な因縁がないから、きっと対立している不良達の光景の最中、俺等のやり取りを見ていたんだと思う。


俺は曖昧に笑った。


気を遣わせたくなかったんだ。


俺と健太のことで気を遣わせたらチームに支障が出る。


俺等だってチームに気遣わせるのは嫌だしな。

まだメールの返信していないけど、既に答えは出ている。


俺と健太がこれからどうしていけばいいか分かっているから。




もう……今までどおり仲良くできる身分じゃない。




どっちも地味のおとなしめ系だから、不良達にチームを抜けるとか、あいつとだけは喧嘩ができないとか、そんなこと大それた意見を吐けるわけもない。意見したとしても、どうしようもねぇよ。


これからも仲良くしたい、なんて我が儘を言えるわけねぇじゃんか。

俺はヨウを選んだし、健太は日賀野を選んだ。



じゃあ……俺等……。



「弥生、心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だから……向こうの奴とはなんでもないよ」

「……ほんとに?」


「なんだよ、湿気た面すんなって。俺なら大丈夫だから」

「そっか。ならいいけど……ケイ、無理は駄目だよ。ケイって、誰にも頼らずに無理するところがあるから」


何かと心配しちゃうんだよ。ほんとだよ。

弥生が小さくはにかんだ。俺はそれを恍惚に見つめた後、「ありがとう」礼を口にして頬を崩す。


これ以上、余計な心配掛けたくなくて、俺はいつもどおり振舞うことにした。


だけど弥生の心配してくれる気持ちはとても嬉しかった。少しだけ心が軽くなったよ。

「弥生、本当にありがとうな」


俺は弥生に微笑んだ。


「ううん」


弥生は首を横に振って笑顔を返してくれた。

彼女の優しさが身に沁みる。現実の辛さを少しだけ緩和できたような気がした。








(―――ケイさん、無理している。何だか悲しそう。励ましてあげたいな。でもでも、弥生ちゃんと邪魔しちゃ悪いし……)


ケイさん……弥生ちゃんにはいつも笑顔だなぁ。 

ココロは複雑な気持ちに囚われながら、二人のやり取りをこっそり見つめていた。


ここは応援するべきところなんだろうけれど、何となく応援する気持ちになれずにいる。


自分にも自然に笑って欲しいな、と小さな欲を抱いては溜息ばかりつくココロだった。




⇒#08